p.19 抽出テキスト
1.1.6 次世代シーケンス法における標的領域の選択 a.ターゲットシーケンス解析(パネル解析) 次世代シーケンス法では,標的領域を絞ってその部位のリードを増やすことによって,配列決定の精度を向上させることができる.ターゲットシーケンス解析は,全ゲノム領域のうち,標的とする遺伝子あるいはゲノム領域を選択的にキャプチャーしてシーケンスする手法である.この手法によって,疾患と関連するゲノム領域の塩基配列を対象に,大量のリードを用いて集約的に解析することができる.疾患と関連する遺伝子を選定して領域を設定することが一般的であるが,疾患と関連するイントロン領域や調節領域なども解析対象として組み込むことができる. b.全エクソーム解析法 全エクソームシーケンス解析は,遺伝子をコードするエキソン領域に由来するDNA 分子を選択的にキャプチャーしてシーケンスする解析法である.解析する領域が全ゲノム領域の2% 程度であるため,シーケンスコストを減らしながら,遺伝子上に存在する疾患原因バリアントを解析対象とすることができるため,効率よく解析を進めることができる.本手法によってエキソン上のバリアントを検出することができるが,それ以外の領域の塩基置換や,染色体の構造変化を検出することはできない. c.全ゲノム解析法 全ゲノムシーケンス解析は,その名の通り,32 億塩基対のヒトゲノムDNA の全領域の配列を解析する手法である.遺伝子をコードする領域に加え,イントロンや遺伝子間の領域を含めて,すべての領域を解析する.結果として,ゲノム上に存在するすべての塩基置換に加えて,欠失・挿入やCNV などの構造的な変化も検出することができる.シーケンスコストの急速な下落と大量データの迅速な産出能力によって,全ゲノムシーケンスはゲノム研究における強力なツールとなってきた. 1.2 遺伝生化学的診断法 1.2.1 新生児マススクリーニング 生後4 ~6 日目の新生児から少量の血液(ろ紙血)を採取し,タンデム型質量分析計(タンデムマス法)を用いてアミノ酸などの物質を検出することを目的として,自治体の公費で行われるスクリーニング検査である.全出生児の中から,治療可能で,かつ放置すれば障害を引き起こす疾患を有する子どもの早期発見・早期治療を行い,障害の発生を予防する目的で実施される. 1977 年より実施されていた先天代謝異常症4 疾患(高 フェニルアラニン血症・メープルシロップ尿症・ホモシスチン尿症1 型・ガラクトース血症)と内分泌2 疾患(先天性甲状腺機能低下症・先天性副腎皮質過形成症)に加え, 2013 年以降は,「尿素サイクル異常症」「有機酸代謝異常症」「脂肪酸代謝異常症」が追加された.対象疾患は一次対象疾患が20 疾患,二次対象疾患が5 疾患,総数25 疾患である(表8) 22).特に,脂肪酸代謝異常症はミトコンドリアでの脂肪酸β酸化が障害されることでエネルギー産生不全をきたす疾患群で,エネルギー需要の多い脳,心臓,肝臓,骨格筋などが障害されやすい.さらに近年,公費負担ではなく自己負担になるものの,重症複合免疫不全症(SCID),2021 年10 月からは脊髄性筋萎縮症(SMA),一 表8 新生児マススクリーニング対象疾患 1 アミノ酸代謝異常(6 疾患) フェニルケトン尿症メープルシロップ尿症※ホモシスチン尿症シトルリン血症1型アルギニノコハク酸尿症高チロシン血症 2 有機酸代謝異常(8 疾患) メチルマロン酸血症※プロピオン酸血症イソ吉草酸血症メチルクロトニルグリシン尿症ヒドロキシメチルグルタル酸(HMG)血症※複合カルボキシラーゼ欠損症グルタル酸血症1 型βケトチオラーゼ欠損症 3 脂肪酸代謝異常(8 疾患) ※中鎖アシルCoA 脱水素酵素(MCAD)欠損症※極長鎖アシルCoA 脱水素酵素(VLCAD)欠損症※三頭酵素(TFP)/ 長鎖3- ヒドロキシアシルCoA 脱水素酵素(LCHAD)欠損症※カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ-1 (CPT1)欠損症※カルニチンアシカルニチントランスロカーゼ欠損症※カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ-2 (CPT2)欠損症※全身性カルニチン欠乏症※グルタル酸血症II 型 4 糖質代謝異常(1 疾患) ※ガラクトース血症 5 内分泌疾患(2 疾患) ※先天性甲状腺機能低下症※先天性副腎過形成症※循環器領域の表現型がみられるもの. (日本先天代謝異常学会.2019 22)より作表)