p.12 抽出テキスト
用である.何より,患者および血縁者自身が疾患原因を知り疾患の理解を深めることは,本検査により得られる大きな意義のひとつである. 遺伝性循環器疾患の遺伝学的検査の多くは,症状が出現している個人に対する原因の確定的診断を目指して行われるものが多く,その目的の代表的なものを図1 に示す.この目的に留意して,遺伝学的検査を実施する対象と目的の整合性を確認し,検査の準備を行う. 他の遺伝性・先天性疾患と同様,遺伝性循環器疾患の遺伝学的検査の実施は,患者の自由意思に基づき,患者の人権が科学的・社会的利益より優先されるのはいうまでもない.さらに,得られた遺伝情報は患者の血縁者全体に共有されることがあるため,その遺伝学的検査は患者のみならず血縁者の健康へも貢献し得るが,この際にもその人権を尊重することが重要である.心臓血管疾患の遺伝学的検査は,日本医学会「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」1)を遵守して実施される. 2 遺伝学的検査の有用性・留意点 遺伝学的検査を行う際には,遺伝情報には,「不変性」(生涯変化しない),「予測性」(将来の発症を予測できる可能性),「共有性」(血縁者で同じ情報を共有している可能性),あいまい性(結果の病的意義・臨床的有用性が変わりうる,病的バリアントから予測される表現型には個人差が ある)といった特性があることに留意する.遺伝性循環器疾患を含む数多くの遺伝性・先天性疾患の原因遺伝子が同定されるなか,遺伝情報が持つこれらの特性を利用して,診断治療への直接利用だけでなく,精緻かつオーダーメイドな医療を,世代を越えて提供する枠組みが形作られてきた.こうした医療の進歩を背景に,遺伝学的検査の有用性は以下にまとめられる(表4). 遺伝学的検査は,受検者が患者か血縁者か,発症者か非発症者かなどによっても,選択される検査方法,検査の意義が変わる場合があるので注意が必要である.遺伝学的検査は患者の診断のために行われる「patient analysis」と血縁者の診断のために行われる「cascade screening」に大別される.「patient analysis」とは,患者における遺伝学的検査として,疑われる疾患の原因遺伝子の全領域に対して実施されるサンガー法や NGS による候補遺伝子パネル解 表4 遺伝学的検査を行う有用性 有用性 症状に関する遺伝学的根拠が示され,医学的な理解が進むことにより患者・家族の「納得」につながる.検診(サーベイランス)・予防に活かせる.急性イベント発症の予防を含む,疾患治療の提供につながる.指定難病,小児慢性特定疾病などが対象となる場合,疾患認定を通じて社会的支援を受けられる.血縁者の診断(cascade screening)を通じた早期介入により血縁者の健康に役立てられる. 誰に なぜ 対象と目的の整合性の確認 検査の実施に向けた準備 受検者:検査を受ける対象 患者または血縁者発症者または非発症者遺伝学的検査を行う目的 • 病因診断を目的とした原因の同定• 精微な層別化による疾患の病型分類• 分類された病型に基づく病態管理と治療法選択• 病態進展の理解と疾患予後の予測• 突然死を含む急性イベント発症の予防• 未発症者の発症予防や早期診断・早期介入 遺伝学的検査の目的にしたがった検査種の決定遺伝学的検査の実施体制の構築 循環器診療部門と遺伝子医療部門が協働して実施遺伝学的検査の有用性・留意点の確認 図1 遺伝学的検査を行ううえで確認すべき事項とその準備