p.75 抽出テキスト
上昇は80 mmHg に及ぶとされており883),繰り返す急激な血圧変動が大動脈壁へのストレスを介して大動脈拡張をきたすと考えられる.OSA に伴う間欠的低酸素血症・再酸素化は酸化ストレス,血管内皮障害,および血管の炎症を惹起し,動脈硬化の原因となりうる.一方,吸気努力による胸腔内陰圧化は,理論上,大動脈壁の壁応力増加を介して胸部大動脈を拡張させると考えられるが880, 881),胸腔内臓器ではない腹部大動脈への影響は少ないと考えられる. OSA と胸部大動脈拡張の関連について分析したわが国の報告では,OSA を有する集団は非OSA 症例に比してCT での平均上行大動脈径が5.3 mm 大きかった(36.8 mm vs. 31.5 mm) 881).また,腹部大動脈瘤患者においてAHI ≧30 の集団では,AHI 0 ~5 に比して大動脈径拡大率が 2.2 mm/ 年有意に高かった90).さらに,OSA を合併する Marfan 症候群では,非合併例と比較して大動脈径が大きいことが報告されており,Marfan 症候群においてOSA は大動脈疾患のリスク因子と考えられる91-94, 884). SDB に対するCPAP 治療の大動脈瘤患者における予後改善効果について,OSA を合併するMarfan 症候群に対してCPAP 治療を導入することにより,大動脈径の増大が減弱するという症例報告もあり91, 92),大動脈瘤における陽圧治療の予後改善効果が期待される92). 12.3 末梢動脈疾患 OSA に伴う間欠的低酸素血症は炎症,酸化ストレスを介した血管内皮障害,エンドセリンを介した血管収縮および交感神経亢進を介した血圧高値により動脈硬化疾患850)を発症すると考えられており,PAD とOSA との関連についての検討は少ないものの,脳卒中や冠動脈疾患と同様の関連が報告されている.SDB 合併PAD では,ほかの動脈硬化性疾患と同様に,ESS で評価した主観的眠気の訴えは少ない885).PAD の重症度とSDB の重症度の関連については,Fontaine 分類のIV 度(皮膚潰瘍や壊死を伴う重症PAD)の下肢PAD では軽症と比較してAHI が高い886)とする報告もあるものの強固な関連性は示されていない. SDB 合併PAD の予後について,下肢動脈血行再建術を行う84 人を対象にOSA の心血管イベントへの影響に関する調査では,平均観察期間52 ヵ月間でAHI ≧20 のOSAの心血管イベント(心臓死,心筋梗塞,冠血行再建術,入院を要する狭心症,脳卒中)についてのハザード比は5.1であり885),PAD の長期予後にOSA が影響する可能性が示唆されている.SDB に対するCPAP のPAD 発症および進展抑制効果については明らかとなっていないが,PAD 自体が冠動脈疾患等のほかの動脈硬化性疾患を合併する割合が高く,OSA は冠動脈疾患や脳血管疾患の予後不良因 子であることが知られているため31),PAD 患者におけるSDB のスクリーニングや,特に重症OSA 症例におけるCPAP 治療の導入の意義は高いと考えられる. 13 肺高血圧(PH) (表45) 13.1 PH におけるSDB の概念 現在,PH は,病態生理学的メカニズム,臨床像,血行動態特性,治療管理に基づいて分類されており,2022 年8月のESC/ERS のガイドラインでアップデートされた(表46) 887).第1 群の肺動脈性PH は,器質的肺動脈病変および肺動脈攣縮による,進行性の肺血管抵抗上昇および肺動脈圧上昇が特徴であり,肺血管拡張薬による治療が行われている.一方,第2 群の左心疾患に伴うPH,第3 群の呼吸器疾患に伴うPH は,肺動脈の異常には起因しないPHであり,それぞれ原疾患に対する治療が原則である.第4群には慢性血栓塞栓性PH が分類され,慢性肺血栓塞栓症を原因とするPH である.外科的あるいはバルーンによる内膜への治療,肺血管拡張薬による治療が行われている. OSA と睡眠関連低換気/ 低酸素症候群では高頻度にPHを合併することが報告されている101, 888-891).睡眠関連低換気/ 低酸素症候群においてはSDB に対する治療によりPHが改善する可能性が期待されている. 表45 PH におけるSDB の評価と治療の推奨とエビデンスレベル 推奨クラスエビデンス レベル SDB の臨床症状の聞きとりとスクリーニングを行うI B適応基準を満たすSDB 症例に対する肺動脈圧低下を目的としてCPAP 治療を考慮するIIa B重症夜間低換気を呈するPH 症例に対してNPPV 治療を考慮するIIa B CPAP/NPPV 治療が困難で,高度呼吸不全を伴うPH 症例に対して在宅酸素療法を考慮してもよいIIb C