GL検索 v0.1.0
画像は 71 ページを描画したものです
page 71

p.71 抽出テキスト

筋仕事量は増加するが,冠動脈血流量は増加しなかったことより,OSA 気道解放時に心筋酸素需要と供給のアンバランスが生じて心筋虚血を引き起こす可能性がある835).

冠攣縮性狭心症の発作は夜間から早朝にかけての睡眠中,とくにレム睡眠に一致して出現しやすいことが知られているが,レム睡眠は交感神経と副交感神経,およびセロトニンとの活動が激しく変動する時期である.この時期にアセチルコリン,ノルアドレナリン,セロトニンなどの血管平滑筋収縮物質が放出されることにより,冠動脈は攣縮しやすくなると考えられている.しかし,冠攣縮性狭心症とSDB の関連性に関する報告は非常に少なく,発生機序に関しても不明な点が多い.今後はこの機序解明に関する研究が待たれる836, 837).

10.6 SDB から虚血性心疾患への進展

WSC では,24 年間の追跡で,重症のOSA 群では未治療群に比して冠動脈疾患または心不全の発症は,ハザード比が2.6 であったとしている838).SHHS における2001 年の横断的解析からの報告では,AHI ≧11 の群では冠動脈疾患合併がコントロール群に比較して1.27 倍高いと報告している49).2010 年のSHHS 追跡調査では,AHI ≧30 の群ではコントロール群に比して冠動脈疾患の発症が1.68倍高いと報告している67).しかし,OSA が心血管イベントの独立した因子であったのは70 歳以下の男性のみであり,高齢男性や女性には関連は認められなかった.Marin らはスペインの睡眠外来受診者の追跡調査から,地域住民を対象とした研究の健常サンプルと比較して,重症OSA は致死的な心血管イベントが2.87 倍,非致死的な心血管イベントが3.1 倍多いと報告している676).SDB に対するCPAP などの陽圧治療による虚血性心疾患の発症予防との関連についてはいくつもの報告がある.もっとも有名な報告は前述のスペインの観察研究である.Marin らはAHI ≧30 のOSA でもCPAP 治療がなされた群では,心血管イベントの頻度がOSA のないコントロール群と同等レベルであると報告している676).また,Barbe らはRCT でCPAP の心血管イベントの予防効果について検討している. CPAP 治療群ではイベントは減少する傾向を認めたが,有意ではなかった397).しかし,4 時間以上CPAP を使用した患者群においては有意な心血管イベント抑制効果が認められ,CPAP 治療を長時間使用することにより虚血性心疾患などの予後を改善できる可能性が考えられている.ただし,これは事前規定された解析ではないため,今後,前向きのアドヒアランスを考慮した大規模RCT が待たれる. 10.7 SDB を有する虚血性心疾患患者の予後

冠動脈疾患患者がSDB を有していることは,死亡,心筋梗塞,脳血管障害などの心血管イベントの発生につながるとの多数の報告がある31, 33, 69, 839-842).Mooe らは5 年間の観察研究で,冠動脈疾患患者では,OSA を有する群は有しない群に比して有意に予後不良であったとしている839).近年のPCI 治療は薬剤溶出性ステントの登場により治療血管の開存率などの治療成績は飛躍的に向上している.Leeらは,冠動脈疾患にOSA が合併することにより,心血管イベント発症率が有意に高かったと報告している.その際には治療標的血管の開存率には差がなかったとしている69).Nakashima らの報告では,ACS の再発はOSA 群においてコントロール群に比して有意に高値であり,約4年の経過観察で主要有害心血管イベント(MACE)はOSA群で有意に高値であった.また,PCI 病変部位における再血行再建術の割合はOSA 群とコントロール群ではほぼ同等であったとしている.それに対し,新規病変に対するPCI を行った割合はOSA 群ではコントロール群に比して有意に高かった841).新しいステントの登場後であっても, SDB の存在はPCI 治療後のイベント発生につながっている可能性がある.最近の研究報告では,OSA と糖尿病の両者が合併することにより,ACS 後の心血管イベントが増加するとの報告もあり,今後さらなる検討が必要と考える627, 843).

冠動脈疾患患者に合併しているSDB に対するCPAP などの陽圧治療により予後改善ができるか,これまでに検討がされてきた697, 844-846).Milleron らの観察研究では,7.2年間の観察期間で,SDB を治療した虚血性心疾患患者群では非治療群に比して,イベント発症率が有意に低かった844).また,Cassar らはPCI 治療後のOSA 患者における観察研究で,CPAP 治療の有無による予後への影響を比較している.CPAP 治療群は非治療群に比して有意に心血管死亡が少なかったと報告している.ただしこの研究では心血管イベントについては両群で有意差を認めていない845).

2016 年に発表されたRCT であるSAVE 試験では,心血管死亡,心筋梗塞,脳卒中,不安定狭心症,心不全,および一過性脳虚血発作のいずれかによる入院をエンドポイントとして,冠動脈疾患または脳血管障害の既往のある患者をCPAP 群と非CPAP 群に割り付けた.結果的にCPAP使用は心血管イベントなどの予後を改善することはできなかった393).SAVE 試験の問題点として,CPAP の平均使用時間が3.3 時間程度であり,CPAP アドヒアランス不良