p.67 抽出テキスト
に深く関与する特徴を有している. 8.2 心房細動(表41) SDB に合併する上室性不整脈として心房細動がある.心房細動は,加齢とともに有病率が増加することが知られており,高齢化社会を迎えたわが国では今後も増加することが推計されている773).心房細動患者にSDB を併発する頻度は報告により差があるが21 ~74%と高い774).とくに,わが国のコホート研究では,心房細動に対するカテーテルアブレーションを受けた母集団において,AHI が15 以上の症例が全体の53.3% と高率にSDB を併存していることが示された775).一方で,SDB に心房細動が合併する頻度は4.8% である774).しかし,SDB が心房細動を新規に発生するリスクは経時的に増加776)するため,罹患期間が長くなるほどその心房細動合併頻度は高くなる.お互いに合併する疾患であり,SDB の患者では心房細動の併発リスクを評価し,心房細動の患者を診たらSDB のスクリーニングを検討することが重要である. 8.2.1 SDB による血行動態の変化 上気道が閉塞した状態では,呼吸運動により胸腔内圧の陰圧化がより顕著となり-50 mmHg 以下になる147).この際の心室のtransmural pressure は,左室収縮期圧が120 mmHg の場合,170 mmHg となる.胸腔内圧が-10 mmHg と正常の場合で左室収縮期圧が160 mmHg の高血圧患者と同等の負荷となり,これが毎晩睡眠のために継続することにより心臓リモデリングが促進し不整脈原性基質となる.OSA 症例のメタ解析では重症度に応じて左室肥大が顕著になることが示されている777).胸腔内圧の陰圧化の増強により静脈還流が増加する一方で,心拍出量が低下するため,血液分布様式が閉塞性無呼吸中に変化する(図25).また,睡眠時に仰臥位になることによる体液シフトが上気道閉塞に関与するという報告もある.下肢から上 半身への体液の再分布により,静脈還流が増加するのみならず,上気道周囲の軟部組織への分布が増加し上気道閉塞を助長することが示されている778).睡眠に伴う体液シフトおよび無呼吸のエピソードごとに伸展を繰り返すダイナミックな血行動態の変化が,構造的なリモデリングを惹起する大きな要因の一つと考えられている. 8.2.2 SDB による心房筋の電気生理学的変化 OSA に伴う急性期の電気生理学的変化として,心房有効不応期の短縮があり,胸腔内圧の陰圧化に伴う自律神経活動の変化,とくに副交感神経活性亢進の関与が示唆されている155, 779).副交感神経活性亢進により,心房有効不応期は短縮し,それに加えて心房伸展,低酸素の複合的な要因により心房細動が発生しやすい電気生理学的素地が形成されることが考えられる155, 779-781).これらの変化は一過性であるが,OSA のエピソードとともにその不整脈発生確率は上昇する.実際にOSA が生じている期間に不整脈の発生が多く,とくに心房細動は夜間の正常呼吸状態に比して無呼吸中もしくはその直後では発生リスクが17.9 倍と高いことが報告されている782).高齢者に比して若年者の発作性心房細動は夜間に多いが783),心房細動発症のリスク因子がなく,心房の構造的変化がみられない状況でも,OSAによって心房細動は発症する可能性がある.比較的若年発症の心房細動症例で高血圧や糖尿病などの明らかなリスク因子を有さない症例に対しては,SDB のスクリーニングを行うことは治療方針を決定するうえでも重要となる. また,心房細動の基質として心房筋の構造的リモデリングがあり,心房筋の線維化促進や細胞結合蛋白であるコネキシン発現量の低下や分布様式が変化することが基礎研究により示されており784, 785),その結果として心房の伝導速度が低下し,リエントリー回路を形成し心房細動を持続させやすくする.カテーテルアブレーション時に施行した電位波高マッピングでは,OSA 患者では左心房自体に低電位領域が確認されており,構造的リモデリングの進行を示唆するものである.また,肺静脈隔離術を施行後に,OSAを合併しない患者では,非肺静脈からの心房細動発症の契機となる心房期外収縮が11.6% で確認されたが,OSA 患者では41.8% と有意に高いことが示され,OSA 患者では心房内での広範囲な不整脈基質が形成されていることが示唆されている786).さらにOSA 患者におけるP 波およびP波の加算平均心電図でのP 波の持続時間(SAPWD)は重症度に応じて延長し,CPAP 治療によりSAPWD が短縮することが報告されており665, 787),OSA に伴う心房の電気的・構造的変化を示唆するものである. 表41 心房細動におけるSDB の評価と治療に関する推奨とエビデンスレベル 推奨クラスエビデンス レベル SDB の臨床症状の聞きとりとスクリーニングを行うI A SDB の治療とともに心房細動の併存疾患や基礎疾患に対するリスク因子の包括的治療を行うI B心房細動の再発予防,心房細動の治療(カテーテルアブレーションを含む)効果の改善を目的としてSDB の治療を考慮するIIa B