p.63 抽出テキスト
不全入院と心血管死亡を合わせた複合心血管イベントの減少は示されなかった. 一方で,最近わが国で行われたRCT では,3 ヵ月間の夜間酸素療法では,ASV に比してAHI の低下は軽度であり,またLVEF の改善は有意ではなかった728).夜間酸素療法は,その簡便性から患者への負担が少なくコンプライアンスも良好であるが,慢性肺疾患や高度肥満例ではPaCO2 が上昇し意識障害を引き起こすことがまれにあるため,その流量の調節については慎重な判断と病態の理解が必要である.また,CSA を合併したLVEF 50% 以下の慢性心不全患者を対象とした酸素療法の大規模RCT が実施中であり729),心血管死亡を含めた有効性と有害事象を含めた安全性についてさらなる検討が待たれる. 5.5.5 CSA への横隔神経刺激療法(PNS) CSA を減少させる新しい治療として,Remedē Systemという装置を用いて経静脈の片側にある横隔神経を刺激するPNS が国外から報告されている506, 509).治療方法の詳細は他項に譲り,ここでは心機能や予後への影響について言及する.151 人のCSA を合併するHFrEF 患者を対象にRCTが実施され,6 ヵ月後のAHI が50% 以上低下するとともに,36 ヵ月間の安全性と忍容性が確認されている505, 514).この治療の開始12 ヵ月の時点において,質問票による眠気の改善,生活の質の改善が確認されている508).The Remedē System Pivotal Trial の事後解析では,心不全患者のLVEF がPNS 後12 ヵ月後においてベースラインと比較し有意に改善したという報告もあり508),PNS は患者アドヒアランスに影響されることなく,CSA の改善を介して心不全患者の死亡や心不全入院などの転帰を改善させる可能性がある.今後,心不全または循環器疾患に合併するCSA を対象とした大規模なRCT で心機能や予後を検証することが求められる. 6 心不全(HFpEF) (表39) 左室駆出率の保たれた心不全(HFpEF)は,HFrEF に比して,SDB を含めた併存する疾患や病態,他臓器障害の影響が大きい730-733).また,HFpEF の予後改善に有効な薬物治療が十分に確立しておらず選択肢が少ないこともあり473, 734),併存疾患管理の重要性が示唆される473, 735).とくに,HFpEF のフェノタイプに応じた治療736, 737)を考慮する際に,高血圧,心房細動,冠動脈疾患,腎機能障害などと同様に,SDB の影響を考慮すべき症例が存在する. HFpEF におけるSDB の合併はHFrEF 同様に高頻度であ るが,OSA 優位とCSA 優位の比率としてはOSA 優位49% とCSA 優位51% 697).OSA 優位57%,CSA 優位43% 75),OSA 優位56%,CSA 優位44% 738)と大体半分ずつを占める.HFpEF にOSA を合併すると予後は不良である739). HFpEF の病態形成には,左室肥大,拡張障害に加え,動脈スティフネスの亢進,高血圧,心房細動,冠動脈疾患などが複雑に関連するが,いずれもSDB と密接に関連する243, 740, 741).SDB による左室拡張障害への影響に関して, OSA の重症化とともに左房拡大,左室肥大,左室拡張障害を認め742),メタボリックシンドロームの合併により,左室拡張障害や左室求心性肥大はより進行し743),SDB がHFpEF 発症の病態生理に関わる心臓の構造変化に関連する可能性がある.さらに,すでに心不全を発症したHFpEF におけるその後の左室リモデリングにもSDB が関与する739, 744).とくにOSA に伴う胸腔内圧変動や交感神経活性によりもたらされる心拍数や血圧の上昇は, HFpEF の病態形成に関与しており739, 741),その管理が有用である可能性がある.AHI よりも低酸素の程度のほうが,より左室肥大745)や予後671, 746)と関連するとの報告もあり, CSA-CSR よりも低酸素血症や胸腔内圧変動への影響の強いOSA は,CSA-CSR に比して,HFpEF 患者において, 表39 HFpEF におけるSDB の治療の推奨とエビデンスレベル 推奨クラスエビデンス レベル 症候性OSA を合併するHFpEF 患者に対してOSA 症状改善を目的としてCPAP治療を行うI A中等症以上のOSA を合併するHFpEF 患者に対して自覚症状,運動耐容能,心機能,併存疾患などの病態関連因子の改善を目的としてCPAP 治療を考慮するIIa A中等症以上のOSA を合併したHFpEF 患者に対して予後改善を目的としてCPAP治療を考慮してもよいIIb C中等症以上のCSA-CSR を合併し, CPAP 治療に忍容性がない,あるいはCPAP 治療が無効のHFpEF 患者に対して自覚症状,運動耐容能,心機能改善を目的としてASV 治療を考慮するIIa A中等症以上のCSA-CSR を合併し, CPAP 治療に忍容性がない,あるいはCPAP 治療が無効のHFpEF 患者に対して予後改善を目的としてASV 治療を考慮してもよいIIb B