p.59 抽出テキスト
増大は,右心不全の誘因となるほか,拡張期に心室中隔を圧排して左室充満を障害し,心拍出量が低下する145, 674). OSA が心血管障害の誘発に介在する機序として,血行力学的な負荷のほかに,内皮機能障害,酸化ストレス,炎症,凝固機能の亢進,さらには肥満,インスリン抵抗性などの代謝機能障害が挙げられている675).これらの詳細は他項に譲るが,冠動脈プラークの破綻,心筋障害,不整脈などを惹起し,心不全の原因となる基礎心疾患を発症・進展させ,最終的に心不全に至らしめる243, 676).心不全では全身的な体液貯留が起こるが,昼間の活動時には立位をとることにより主に下肢に過剰な体液が貯蓄される.睡眠中の仰臥位の姿勢により下肢から体液シフトが起こり,上気道周囲の浮腫が生じることでOSA が増悪するという悪循環も知られている244, 250, 677). 米国の大規模コホート研究において,未治療の重症OSA を合併する男性は,心不全発症リスクが高いことが示されており49, 67),最近の研究では,AHI よりも低酸素の重症度(sleep apnea-specific hypoxic burden: SASHB)のほうが心不全の発症に強く関連することが報告されている678). OSA を合併したHFrEF 患者の予後は不良であり107), HFrEF 患者に合併するOSA への治療により心機能や予後が改善する報告もあることから154, 679),OSA は心不全の発症,増悪のリスク因子として位置づけられ,慢性心不全の各ステージにおいてその進展に影響を与えると考えられる. 5.2.2 CSA-CSR 発生の機序 OSA が主に心不全のリスク因子と位置づけられるのに対し,CSA-CSR は心不全の結果とみなされている.CSA- CSR を伴う心不全患者は,伴わない患者よりも心不全の重症度が高い傾向があり,肺動脈楔入圧が高く257),左室拡張末期容積が大きく240),尿中ノルアドレナリン濃度が高く680),筋交感神経活動が亢進し681),運動時の換気応答が亢進している253).HFrEF 患者におけるCSA-CSR の主要な予測因子として,高齢,男性,心房細動,低炭酸ガス血症(PaCO2 ≦38 mmHg)が挙げられており109, 241, 672),女性ではCSA-CSR の合併はまれである72, 499, 682).CSA-CSRの発生機序の詳細は,第1 章4. 2. 1「機序」を参照されたい. 5.3 HFrEF の予後に対するSDB の影響 心不全患者に併存するOSA が長期予後へ及ぼす影響をみた研究は少ない.予後に影響しないという報告もあるものの683),中等症以上のOSA の合併は予後を悪化させるとの考えが支配的である.LVEF が45% 以下の心不全患者の観察研究では,AHI ≧15 のOSA を認めたが,治療を 受けなかった群は,AHI <15 の群よりも予後が不良であり,多変量解析ではAHI ≧15 の未治療のOSA は予後を規定する因子であった107). 一方,CSA-CSR は心不全の結果として生じるが,心機能が著しく低下した例では無呼吸に伴う低酸素,再酸素化や中途覚醒に伴う交感神経活性の亢進は,心機能にさらなる悪影響を及ぼすと考えられ,実際,不良な予後との関連を示した多くの報告がある.CSA-CSR を合併した心移植待機患者の長期予後は不良であり111),低左心機能患者(LVEF ≦35%)においてAHI ≧30 のCSA-CSR は心臓死の独立した規定因子であり684),より軽症レベルから不良な予後との関連を示した報告もある110).さらに,HFrEF患者において入院中に実施された検査で検出されたAHI ≧15 のCSA は,6 ヵ月以内の心イベントによる再入院を規定する因子である685). SDB はその型によらずHFrEF 患者の予後に悪影響を及ぼすとする報告も多い.HFrEF 患者の急死の原因となる致死的不整脈の発生は,OSA,CSA を問わずSDB 合併例で高く,ICD 植込み治療の必要度が高いことが報告されている686, 687).急性非代償性心不全患者(LVEF ≦45%)の退院後の生存率を3 年間観察した研究では,入院中の睡眠検査で検出されたAHI ≧15 のOSA,CSA は,ともに予後を規定する因子であり,これらを治療しない場合の予後は不良であった688).最近の報告においても,SDB の型を問わずAHI ≧15 である急性心不全患者で陽圧治療を受けない場合には,退院後の死亡または心不全による再入院が高頻度であった689). 一方,AHI よりも低酸素の重症度(SpO2 <90% の総時間)のほうが,HFrEF 患者の生命予後を強く規定することが報告されており671),心不全患者のSDB の評価指標について今後さらなる研究が望まれる. 5.4 HFrEF に合併するSDB の検査 心不全患者では日中の過度の眠気などのSDB の症状が顕著に現れないことが多い690).その一方で,SDB を合併したHFrEF 患者において,日中に過度の眠気がない患者は,眠気のある患者よりも死亡率が高いことが報告されている691).したがって,慢性心不全患者においては,常にSDB の存在を念頭に置く必要があり,とくに内科的治療の最適化を行っても心不全症状の改善が得られない症例では,昼間の眠気などの症状の有無にかかわらず,病態把握の観点からスクリーニングを行うことが推奨される.急性非代償性心不全で入院した患者においては,退院前のパル