p.36 抽出テキスト
かった326).一方,非ベンゾジアゼピン系睡眠薬は,筋弛緩作用が弱く,中等症以上のOSA 患者において,エスゾピクロン3 mg 投与327),ゾルピデム10 mg 投与328)により,いずれもAHI を悪化させず,むしろ睡眠効率が改善した.近年,処方可能となったベンゾジアゼピン受容体に作用しないオレキシン受容体拮抗薬は,覚醒維持,レム睡眠の突発的出現の抑制を阻害し,催眠作用を引き起こす.OSA患者へのスボレキサント329),レンボレキサント330)投与でAHI や平均SpO2 に影響は認められなかった.したがって,ベンゾジアゼピン系睡眠薬は,OSA 発症リスクを有する患者には慎重に使用すべきであり,非ベンゾジアゼピン系睡眠,オレキシン受容体拮抗薬の使用が望ましい.SDB の有無を問わず依存性やせん妄および転倒転落リスクが低い薬剤の使用をまずは考慮する. RCT によると,OSA 患者への有酸素持久運動とレジスタンス運動を併用した運動療法により,体重の減少がなくてもAHI に改善がみられた331).また,冠動脈疾患治療後の長期運動リハビリテーションにより,AHI に改善がみられた332).一方,大規模長期追跡研究では,OSA 患者への週に数時間の運動は,性別・年齢調整後ではOSA の発症リスクの軽減や診断後の増悪リスクが低下するが,BMI 調整後では有意差を認めなかった333).運動の効果としては,上気道開大筋への作用,呼吸筋が鍛えられることによる肺気量の増大が提唱されている.OSA の増悪予防に減量と併せての運動は推奨される. 5.2.3 体位療法 OSA 患者の半数以上では,睡眠中の特定体位(おもに仰臥位)に伴う咽頭気道狭窄による無呼吸が発生しやすく,別の体位では軽減することが知られている334).このような患者は体位依存性OSA(positional OSA)とよばれ,病態や重症度によっては後述する体位療法が効果を示す場合がある.本症は,Cartwright らが提唱した診断基準「睡眠中の体位が側臥位から仰臥位になった際に,AHI が2 倍になるOSA」335)が有名であるが,悪化体位や至適体位が患者ごとに異なるなどの理由から,さまざまな定義が用いられており国際的に統一された定義はない334).体位依存性OSA 患者は,男性,重症度が低い,BMI が低い,若年などの特性が知られている336).体位による無呼吸発生は, PSG や一部の簡易モニターでも確認可能である. 体位療法は,体位依存性OSA 患者に対して,無意識のうちに仰臥位になるのを防ぎAHI を軽減させる治療法である.古典的には患者寝衣の背中にポケットを作りテニスボールを入れる方法が広く知られているが,効果および継続率が十分とは言えない334).近年は,海外を中心に頚部や胸部に装着するバンド形状の機器(睡眠体位を感知する 小型センサーが仰臥位を感知すると振動が続き仰臥位を妨げる)が開発され337, 338),首に装着するNight shift は体位依存性OSA の治療として米国FDA より承認されている. 体位療法の効果に関する研究は,各種デバイスを用いてランダム化クロスオーバー試験などが複数行われている339-341).それらを統合したメタ解析342, 343)やシステマティック・レビュー344)などで結果がまとめられ,後者では体位療法(振動デバイス)とコントロールと比較した3 つの研究の統合でAHI が一定程度減少し,また,CPAP 治療と比較した2 つの研究統合では,CPAP ほど効果がない(アドヒアランスはCPAP に勝る可能性がある)ことが示されている344).しかし,小規模の研究が多いうえに長期効果検証が不十分であること,デバイスが標準化されておらず,日本人に対する報告はないなど不明な点が多い.したがって,現時点におけるOSA に対する体位療法は,CPAP治療の適応とならない体位依存性の軽症OSA 患者ならびにCPAP 治療などの標準治療が困難な例の代替治療として用いることが推奨される. 5.2.4 薬物治療 OSA に対する薬物治療は,現時点では単独で有効性が確立しているものはないが,CPAP 治療や口腔内装置(OA)以外の治療オプションとなる可能性があり検討されている.近年,Wellman らの提唱するOSA の病態生理を構成する4 つの要素(解剖学的要因,上気道代償性の低下,呼吸調節系の不安定性,低い覚醒閾値)とそれらを組み合わせた疾患多様性(フェノタイプ)の考え345, 346)に基づいて将来の候補薬,補助的作用をもつ薬剤が整理されつつある347).現在,わが国ではアセタゾラミドのみがOSA に対する保険適用がある. a.解剖学的要因に対する薬物治療 肥満,浮腫,鼻腔抵抗上昇に伴う上気道狭小化の改善が治療ターゲットとなる.肥満に対して,セロトニンとノルエピネフリン再吸収阻害薬のsibutramine(国内未承認) 348, 349),GLP-1 受容体作動薬のリラグリチド(2 型糖尿病に保険適用,肥満に保険適用なし) 350),交感神経作動とGABA 作動性の鎮静を組み合わせたphentermine– topiramate(国内未承認) 351)などで肥満改善に伴うAHI 減少が報告されているが,安全性は確立していない.心不全,浮腫など体液貯留がある症例では,アルドステロン拮抗薬のスピロノラクトンやその他の利尿薬の組み合わせなどで一定のAHI 改善効果が認められている352-354).鼻閉のある症例に対しては,噴霧ステロイド薬や点鼻用血管収縮薬の併用などで鼻腔の通気状態の改善に伴うAHI 改善の効果