p.32 抽出テキスト
深睡眠が減少し,レム睡眠の割合が低下し,覚醒反応が増加している109).このようにCSA 患者の睡眠構築は障害されているにもかかわらず,CSA 患者において昼間の眠気の指標であるESS は変化せず138),AHI とも相関しない253).また,CSA と夜間発作性呼吸困難の関連が指摘されているが254),心不全に由来する呼吸困難と,CSA に由来する症状とを厳密に区別することは難しい.OSA 患者に比して, CSA 患者は,不眠などの自覚症状に乏しい傾向が示されている105).また,純粋なCSA 患者であればOSA 患者のようないびきを生ずることもない.このような理由から, CSA の存在を自覚症状から予測することは難しい.CSAを対象にした質問紙は今のところなく,PSG のような客観的検査が必要である. CSA-CSR は,心不全や脳卒中などの基礎疾患を有する患者で認められる.中枢性無呼吸や中枢性低呼吸が,気流(あるいは一回換気量)の漸増漸減パターンを示す呼吸相と交互して繰り返し生じることが特徴である.周期長(呼吸相)は40 秒以上で,典型的には45 秒から60 秒を示す251).収縮機能の低下した心不全では,周期長がより長く,随伴する酸素飽和度低下の最低点はしばしば遅れて出現する251).OSA とCSA が混在している患者もあり,陽圧呼吸治療を行わなければ,CSA-CSR が顕在化しない場合もある. CSA 患者のなかには,CSR を覚醒時にも示す症例がある112, 255).覚醒時のCSR は体位変換により変化し,574 人の心不全患者の検証で,34% で仰臥位のみ,14% で直立位および仰臥位ともにCSR が示されている.直立位CSRは,日中および夜間のAHI,CAI が高く,血中ノルエピネフリン,N 末端プロ脳性ナトリウム利尿ペプチド(NTproBNP)値が高く,CO2 化学感受性が亢進しており,予後が不良である113).また,覚醒時のCSR が安静時には明らかではなくとも,心肺運動負荷試験によって明確になる場合も少なくない256).睡眠時,安静時,運動時に生ずるこれらの周期的な呼吸は,共通する換気調節異常と関連していると考えられている.また,CSA 患者のAHI は最大酸素摂取量とは相関しないが,運動負荷による換気応答が亢進していることも特徴の1 つである253). 4.2.3 OSA との違い CSA を伴う心不全患者はOSA を伴う心不全患者に比して,男性に多く,高齢で,BMI が低く,心房細動の頻度が高く,利尿薬の使用頻度が高く,動脈血二酸化炭素濃度が低く74, 109),肺動脈楔入圧が高い257).また,心不全治療により肺動脈楔入圧が低下するとCSA も改善する257).一晩のあいだでも換気量の増大や,動脈血二酸化炭素濃度の低下に応じて,OSA からCSA に移行する現象が認められ る258).また,PSG を1 ヵ月以上の間隔を空けて行うと, CSA とOSA のあいだを相互に移行する症例も存在する259).このように,CSA は固定した現象ではなく,その病態に応じて変化しうる. OSA と同様に,CSA を有する患者においては,交感神経活性は亢進している.CSA を伴う心不全患者は睡眠中の血中と尿中のノルエピネフリン濃度が高い260).CSA に対する治療介入が,就眠中の交感神経活性261)や心室性不整脈を軽減させる262).このような事実から,CSA が睡眠中の交感神経活性を亢進させ,負の効果を有すると考える根拠となっている. 無呼吸が血行動態に与える影響はOSA とCSA では異なる.OSA 患者の無呼吸中の胸腔内圧は-50 mmHg から-80 mmHg 程度まで低下する.この結果,静脈還流増加から,右室容量負荷が増大する.無呼吸による肺胞低換気から肺動脈攣縮を きたすことから右室圧負荷も加わり,右心室は心室中隔を圧排し,左室容積を減少させることもある145).また,心室内外の圧較差が増大し,左室後負荷も増大する.このような血行動態の変化が心機能低下につながる可能性がある.少数例の慢性心不全患者を対象とした短期間のランダム化化介入試験で,CPAP によるOSA 治療で左室収縮機能が改善するなどの有効性が示されている154). 一方,CSA においては,OSA で認めるような胸腔内圧変化は生じないため,心機能への影響も異なり,無呼吸相やCSR 相での心機能変化の検証がされている.一回拍出量は,閉塞タイプ無呼吸イベントで低下するが,中枢タイプイベントの際は僅かながら上昇することが示されている263).CSR は,心不全における適応応答と考える仮説も提唱されてきた264).CSA-CSR 合併心不全患者には,呼気終末肺気量が低下しているサブタイプが存在し,周期長が長く,NYHA 心機能分類は重症で,NT-proBNP 値が高いという特徴を有している265).CSR の過換気時において一回拍出量は一般的には低下するが,呼気終末肺気量が機能的残気量を下回った場合は,上回った場合に比して,一回拍出量低下が軽度であることも示されている266).この機序として,呼気時の胸腔内圧上昇による左室transmural pressure 軽減による影響が推察されている.少数例での検証ではあるが,CSA による血行動態への影響が症例により異なる可能性が示唆されることの臨床的意義は高く,CSAに対する治療が心不全の治療オプションとなりうる症例を明らかにするためにも,今後の更なる知見の蓄積が期待される.