GL検索 v0.1.0
画像は 30 ページを描画したものです
page 30

p.30 抽出テキスト

OHS は,厚労省指定難病230 肺胞低換気症候群の一病態として調査研究が進められている(重症度によっては医療費助成対象) 239).

4.2 CSA の病態

4.2.1 機序

CSA は脳血管疾患,薬剤および高地環境などでも引き起こされるが,ここでは心不全に起因したCSA-CSR の機序について述べる.

呼吸調節系は,化学調節系,神経調節系,および行動調節系の3 つの系で形成されるが,覚醒時と睡眠時とでは呼吸に与えるこの3 つの系の寄与が変容する.とりわけノンレム睡眠では,呼吸は化学調節系が中心となって調節を受ける.したがって,PaCO2 レベルが重要な役割を果たす.一方,レム睡眠では,化学調節系に加えて行動調節系が呼吸調節に大きく影響するため,PaCO2 の変動によって生じるCSA が観察されることはまれである.なお,神経調節系は,換気運動が上気道や肺,呼吸筋に存在する機械的受容器を刺激し,求心性神経線維を介して肺のふくらみ具合など換気運動に関する情報を呼吸中枢に与える調節系であるが,心不全では後述する迷走神経無髄C 線維終末がCSA-CSR 発症機序に大きく関与している.

無呼吸が生じるPaCO2 レベルをPaCO2 無呼吸閾値といい,一過性の過換気によりPaCO2 が無呼吸閾値を下回ればCSA が生じる.これらの現象は代謝双曲線と高二酸化炭素ガス換気応答(HCVR)直線からなる肺胞換気量とPaCO2 との関係を用いて図12 で説明される.定常状態においてCO2 産生量が一定であるため,肺胞換気量とPaCO2 のあいだには両者の積が一定になる肺胞換気式という双曲線関係が成り立つ.この代謝双曲線とHCVR 直線の交点に相当する点で換気の定常状態が達成される(図12A: a 点[健常人],b 点[心不全患者]).HCVR 直線とX 軸との交点,つまり肺胞換気量がゼロになる点(図12A: c 点[健常人]d 点[心不全患者])がPaCO2 無呼吸閾値となる.

PaCO2 無呼吸閾値とeupnea PaCO2 の差であるCO2 リザーブとHCVR は,CSA-CSR を引き起こす重要な要素である.心不全患者では,肺うっ血のため,肺毛細管近傍の肺実質に存在する迷走神経無髄C 線維終末(C-fiber ending),いわゆるJ-receptor が刺激され換気が亢進し, PaCO2 は低値を呈する(図12A: a →b) 240).また,心不全患者ではHCVR は亢進していることが報告されている241). HCVR はO2-CO2 相互作用を有するため,低酸素血症を伴う心不全は化学受容体感受性,とりわけHCVR をさら

に亢進させる(図12A: 直線の傾きが健常人より急峻).さらに,心不全患者における交感神経活動の亢進が,HCVRを亢進させることも指摘されている242).以上の結果,心不全患者のPaCO2 無呼吸閾値は上昇し(図12A: c →d), CO2 リザーブが減少する.CO2 リザーブの減少は,わずかな換気亢進によってPaCO2 無呼吸閾値にまで達するので, CSA が出現する243-246).

HCVR は覚醒時と睡眠時では異なり,睡眠中は鈍化する(図12B: 直線の傾きがノンレム睡眠で緩やかになる).心不全患者がノンレム睡眠から何らかの原因により覚醒すると,肺胞換気量の上昇に伴いPaCO2 は低下し,図12B のf 点からe 点にシフトする.その後,再入眠すると,f 点に戻るまでのしばらくのあいだ,無呼吸を呈する.このような繰り返しがCSA-CSR をもたらす.また別の視点からも繰り返すCSA-CSR を説明することが可能である.すなわち図13 247)に示すように,HCVR が正常の場合(図13A)とHCVR が亢進している場合(図13B)では,ある一定の換気低下によってもHCVR 直線の傾き次第では無呼吸と過換気が繰り返されることが理解できる.

心拍出量や一回拍出量と負の相関を示す循環時間も,心不全患者のCSA-CSR 出現に重要な役割を果たす.つまり動脈血ガス分圧の情報が肺内から中枢および末梢受容体に到達するまでに遅延が生じると,理論上呼吸調節系が不安定となる.Mortara らは心不全患者のCSR は循環時間の遅延がおもな原因であると報告しているが248),循環時間での遅延のみではCSA-CSR を引き起こさないとの報告もある.

また,心不全患者で日中に貯留した下肢の水分が夜間臥位で睡眠中に上半身に移行して,肺うっ血を助長し,換気亢進を引き起こすことでPaCO2 が低下し,CSA-CSR を誘発させることも指摘されている249, 250).さらに,心不全患者に対する利尿薬投与による代謝性アルカローシスはPaCO2 無呼吸閾値を上昇させ,CO2 リザーブが減少することもCSA-CSR を誘発する1 つの機序であることも指摘されている.

4.2.2 臨床症状

CSA 患者に特徴的な自覚症状はなく,基本的にはOSA患者のそれと共通する.昼間の眠気,不眠(入眠や睡眠維持の困難,頻回の中途覚醒,あるいは非回復性の睡眠),呼吸困難による覚醒などがそれである251).年齢,性別,心不全の特徴などの患者背景因子により,CSA による臨床症状が異なるかについては,十分に検証されていない252). CSA 患者においては,CSA を有さない心不全患者よりも