p.29 抽出テキスト
評価法や試験デザインもさまざまである.インスリン抵抗性評価のゴールドスタンダードであるHyperinsulinnamic euglycaemic clamp を用いた研究は比較的少ないが,短期間(2 日間) 218),中期間(3 ヵ月) 219)のCPAP によりインスリン抵抗性が有意に改善したことが報告されている.また,対象患者の糖尿病の有無,OSA の重症度,糖尿病罹患期間や糖尿病治療薬,CPAP アドヒアランスの差異などもその結果に影響している可能性があり,インスリン抵抗性に対するCPAP の効果に関してはさらなる大規模な検討が必要である. 4.1.7 血栓,血小板活性との関連 OSA は,疫学研究において心血管障害を発症する重大なリスク因子であることが明らかになっている84, 220).その心血管障害は,アテローム(動脈硬化)血栓ともよばれる動脈血栓を生じうる.また最近ではOSA が,フィブリンに富む静脈血栓発症のリスク因子でもあることも報告されている221). OSA は間欠的低酸素血症や酸化ストレスの亢進,交感神経活性,炎症性サイトカインの産生亢進,血管内皮障害を介して血栓症を惹起する222). また,OSA 患者では,Intercellular adhesion molecule-1 (ICAM-1),vascular cell adhesion molecule-1(VCAM-1)などの接着因子の発現が亢進し223),炎症細胞の血管壁への接着を介して血栓形成を促進するが,動物実験によれば間欠的低酸素曝露のみではこれらの誘導はされず,交感神経活性に依存した誘導であることも報告されている224).さらにOSA では,凝固因子の増加,血小板活性化が促進され,血小板凝集能を亢進し溶解作用を障害することで血栓形成が促進されることも示されている225). 近年,OSA と深部静脈血栓発症のリスクに関しても多くの研究,総説が報告されている.海外の大規模コホート研究では,非OSA 患者と比べOSA 患者は平均5 年の追跡で2 倍221),平均3.6 年の追跡で3 倍226)の独立した深部静脈血栓症の発症リスクであることが報告されている.一方で,どちらの報告もCPAP の治療歴,治療アドヒアランスなどは示されておらず,今後のさらなる検討が必要である. 4.1.8 肥満肺胞低換気症候群(OHS)(表14) OHS は,肥満(BMI >30 kg/m 2)と日中覚醒時の肺胞 低換気(動脈血二酸化炭素分圧[PaCO2]>45 Torr)を特徴とし,かつ心臓,肺,神経・筋などの器質的疾患や先天性異常,薬剤の影響では説明がつかない病態をいう3, 227).眠気や倦怠感などの症状を伴い,低換気は睡眠中(とくにレム睡眠中)に増悪することが知られている.約90% でOSA 併存を認めるが3, 228),病態は上気道閉塞のみでは説 明できず,肥満に伴う呼吸への機械的負荷,慢性的な低換気に伴う換気応答減弱,液性因子の影響など病因解明が進められている3, 227, 229).OSA 単独の患者よりも循環器系の合併症が多く,無治療では入院の頻度も死亡率も高いため注意が必要である230).ICSD-3 では,睡眠関連低換気障害の一病態に分類されており,OSA が併存する場合は, OSA とOHS の両方を併記すべきとされている3).以前はPickwickian 症候群という名称が用いられてきたが,現在はあまり使用されていない. 治療は,減量と並行して,SDB に対して鼻あるいは鼻口マスクを介したCPAP や,二相性陽圧呼吸(bi-level PAP,バックアップ換気あり・なし)を用いる231, 232).減量は常に考慮されるべき治療法であり,米国胸部疾患学会では, 25 ~30% の減量とその維持を目標とする介入が勧められている(症例によっては肥満外科手術が検討される) 233). 70% 以上に重症OSA を認めることから,「CPAP,bi-level PAP 療法のどちらを第一選択すべきか」という臨床的疑問に対して,海外で4 つのRCT が行われており234-237),そのうち3 つをまとめたメタ解析も報告されている238).それらの結果では,安定期のOHS に対する初期治療では,入院頻度,入院期間,心血管イベント発生率,生命予後,眠気・血圧・血液ガス改善度などでは同等の効果が確認され,かならずしもbi-level PAP がCPAP より優れていることは示されていない.したがって,現時点における安定期OHSに対しては,1第一選択としてCPAP を使用し,2CPAP治療で治療効果または忍容性が不十分な場合はbi-level PAP を検討する.bi-level PAP へ変更し,その後安定した場合には,再度CPAP へ再度切り替えることも可能である234).ただし,感染などを契機に急激に低換気が悪化している例では,挿管- 人工呼吸を要す場合もあるため注意が必要である.その他,低換気が主病態で睡眠中OSA イベントが少ない患者に対しては,CPAP よりもbi-level PAP 療法が選択されるべき可能性がある233). なお,本疾患のうち呼吸調節の異常が主たる病態で, CPAP やbi-level PAP でも日中の肺胞低換気が改善しない 表14 OHS の治療に関する推奨とエビデンスレベル 推奨クラスエビデンス レベル 安定期のOHS に対してCPAP 治療を考慮するIIa B CPAP 治療で治療効果または忍容性が不十分な場合はbi-level PAP 治療を考慮してもよいIIb B