p.26 抽出テキスト
4.1.3 血行動態への影響 OSA が心血管系に与える影響は,胸腔内が繰り返し高度の陰圧になること,低酸素状態・高炭酸ガス状態になり交感神経活動の活性が短期的・長期的に亢進すること,また低酸素のために生じる液性因子や血管内皮の変化などが重なって生じる. a.胸腔内陰圧の影響 OSA では上気道が閉鎖した状態で吸気が生じるため,胸腔内には,平均-40 ~-50 cmH2O,症例により-100 cmH2O を超す陰圧が一晩中繰り返して生じている145-147).これは心臓全体に対して外部から間欠的な吸引を行うことと同様の作用をもたらしており(transmural pressure の上昇),左室収縮時に左室壁にかかる力により後負荷を上昇させて,直接的に心収縮に悪影響を与えている148).一方,胸腔内が陰圧になると静脈還流が急速に増加し,右心系の容積が急激に増大する.その結果,心室中隔が左室側に変位するため,左室の拡張が妨げられ,一回拍出量は低下する145)(図11).こうした気道閉塞下の吸気は,重症OSAではレム睡眠時,ノンレム睡眠時に関わらず心拍出量を平均15% 減少させ,肺動脈楔入圧を平均8 mmHg 上昇させることが報告されている149, 150).このような心拍出量の低下は,酸素レベルを酸素投与で正常に保っても生じることより151),かならずしも低酸素が引き金にはなっておらず,胸腔内の陰圧化がもたらしている可能性が示唆されてい る.覚醒時にOSA を模したMüller 法を用いた検討では,健常心でも心拍出量を低下させるが,不全心では心拍出量の低下はさらに大きくなる.さらには心拍出量や血圧の回復が遅延することが報告されており152),心不全患者ではOSA により夜間の心機能がさらに悪化する可能性が報告されている153).こうしたOSA のある心不全患者に1 ヵ月以上のCPAP 治療を行うと覚醒時のLVEF が改善するという報告が多くあるが154),この機序の1 つとして,以上のような物理的負荷の改善が考えられる.一方,胸腔内圧が陰圧になることで,おもに静脈還流の増大を通じた心腔の拡大や肺の圧受容器の刺激で生じる自律神経系の変化により,心筋の受攻性が亢進して心房細動が起こりやすくなると考えられている155-157). b. 低酸素血症 OSA では,一晩中,間欠的低酸素・高炭酸ガス状態を繰り返している.低酸素状態は,交感神経活動を亢進させ,心拍数や血圧が上昇するが,高炭酸ガス状態もあるとさらに亢進することが示されている158).夜間のOSA に伴う交感神経活動の急激な亢進は末梢血管の収縮による高血圧状態をきたし,胸腔内圧の陰圧によるtransmural pressureの上昇と合わせて,さらに心臓の後負荷を増大させる.しかし,低酸素血症による心収縮そのものへの影響について 表13 OSA *(195 人)における自覚症状・他覚徴候の症 状出現頻度 症状・徴候発現頻率 (%) 睡眠中のいびき93睡眠時の無呼吸指摘92日中の過剰傾眠83睡眠時の体動異常54全身倦怠感51寝汗51起床時熟睡感の欠如51夜間2 回以上排尿40睡眠中の窒息感を伴う覚醒38夜間3 回以上の覚醒35起床時の頭痛35集中力の低下28不眠19 *: AHI が5 以上で習慣性いびき,眠気などの何らかの自覚症状をもつ者(榊原博樹ほか.2000 141)より)図11 OSA の陰圧が胸腔内に与える影響 上気道の閉塞(1)が生じると,吸気時の呼吸筋運動(2)により,全身から静脈還流が増加(3)する結果,心室中隔は左心室の方向に張り出す(4).また,左心室に対する外部からの陰圧は(5),収縮に対する障害(後負荷の増大)となり,心機能が低下する.