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p.8 抽出テキスト

第1章 冠攣縮に関連する新たな疾患概念

1 MINOCA

1.1 病態

急性心筋梗塞の中で責任血管に閉塞・狭窄を認めない症例が以前から報告されていたが19, 20),2012年,冠動脈造影上,心外膜冠動脈に50%以上の有意狭窄病変を有さない急性心筋梗塞を表す用語として,冠動脈閉塞を伴わない心筋梗塞(myocardial infarction with non-obstructive coronary arteries: MINOCA)が提唱され注目されている4).閉塞性冠動脈疾患を有する心筋梗塞(myocardial infarction with coronary artery disease: MI-CAD)に対する診療の技術革新と相俟って,広く認識されるに至った.すなわち,微細な心筋傷害も検知可能な高感度心筋トロポニン測定系の確立,心筋トロポニン変動に基づく急性心筋梗塞のUniversal Definitionの提案21),そして急性心筋梗塞に対する緊急冠動脈造影がルーチンに施行可能となったことによるST上昇型心筋梗塞に対する再灌流療法の普及により,予後改善が進んだ.一方で,「閉塞血管を有さない」心筋梗塞が一定数存在し,その診断や治療に苦慮する場面に少なからず直面することとなり,その課題が浮き彫りとなってきた.

Universal Definition改訂第4版では,心筋トロポニンが健常人の99パーセンタイル値を超える上昇を示す心筋傷害

(myocardial injury)の中で,動脈硬化や血栓症,酸素の需

要と供給のインバランスといった急性心筋虚血に基づく心筋梗塞を明確に区別することが明記されている21).よって, MINOCAを診断するにあたって,急性冠症候群に類似した症状を呈する非心臓由来の心筋傷害(敗血症や腎機能障害など)や冠動脈疾患以外の原因による心筋傷害(心筋炎,心筋症など)を除外する必要がある.しかし,MINOCAは冠動脈造影施行時に有意狭窄を認めないことで暫定的に診断される“working diagnosis”であるため22–24),冠動脈造影の時点において非虚血性の心筋傷害をすべて除外することは,必ずしも現実的ではない.MINOCAの診断名が“working diagnosis”として用いられているか,最終診断として用いられているか,に留意する必要がある.混同を避けるために,非心臓由来の心筋傷害,冠動脈疾患以外の心疾患による心筋傷害を含めた心筋トロポニンの上昇を呈する病態の用語として,トロポニン陽性非閉塞性冠動脈(troponin-positive non-obstructive coronary arteries: TP-NOCA)が提唱されている25)(図1).重要なことは,心不全の原因の鑑別診断と同様,MINOCAを冠動脈造影時点の“working diagnosis”として捉え,後述のように(1.3 診断 を参照),種々のモダリティを用いてその原因を鑑別することである.

MINOCAの想定される原因疾患を図2 22, 25) に示す.冠動脈疾患として,プラーク破綻・びらん,冠攣縮,冠微小循環障害(coronary microvascular dysfunction: CMD),冠微小血管攣縮,特発性冠動脈解離(SCAD),冠動脈に及

このフォーカスアップデート版は日本循環器学会,日本心血管インターベンション治療学会,日本心臓病学会,日本冠疾患学会,日本小児循環器学会,日本心臓血管内視鏡学会,日本心臓リハビリテーション学会,日本不整脈心電学会の8学会に参画いただいた.基本的事項は2013年改訂版2)の通りであり,本稿はフォーカスアップデート版であることを忘れずに参考にして頂ければ幸いである.

表2 エビデンスレベル

レベルA複数のランダム化臨床試験またはメタ解析で実証されたもの.レベルB単一のランダム化臨床試験またはランダムではない大規模な臨床試験で実証されたもの.

レベルCランダム化介入でない小規模な臨床試験,後ろ向き研究,登録研究などの結果,または専門家の間での合意に基づくもの.