p.7 抽出テキスト
緒 言 2008年「冠攣縮性狭心症の診断と治療に関するガイドライン」1) が日本循環器学会により作成され,2013年に改訂版が発表された2).その後,冠微小循環障害(coronary microvascular dysfunction: CMD),バイオマーカー,画像診断,生理機能,遺伝子などの多方面から新知見が集積され,また急性冠症候群に対する緊急冠動脈造影の普及,高感度トロポニンによる診断技術の発展と相俟って,冠動脈閉塞を伴わない心筋梗塞(myocardial infarction with non-obstructive coronary arteries: MINOCA)や心筋虚血(ischemia with non-obstructive coronary artery disease: INOCA)の新たな概念が提唱されている3, 4).18世紀半ばに命名された狭心症(angina pectoris)は,20世紀に異型(variant form) 5) が追加され,観血的・非観血的な検査・診断技術や薬物・カテーテル治療の進歩により, 21世紀には継続的なリスク管理の必要性を考慮した慢性冠症候群(chronic coronary syndrome: CCS)として欧州心臓病学会から提案された6). 地域差,人種差が指摘されていた冠攣縮は欧米でもまれではなく7, 8),冠動脈機能異常に関する国際共同研究組織(COVADIS)から,2017年に冠攣縮性狭心症9),2018年に微小血管狭心症10)の診断基準が示された.MINOCAやINOCAの症例を前に,器質的病変がないことで関心が薄れることなく,安易に心臓以外に胸部症状の原因を求めず,冠動脈機能異常(冠攣縮・CMD)を認識・考察することの重要性が問われている11-16). 本フォーカスアップデート版では,「冠攣縮性狭心症の診断と治療に関するガイドライン(2013年改訂版)」2),「急性冠症候群ガイドライン(2018年改訂版)」17),「慢性冠動脈疾患診断ガイドライン(2018年改訂版)」18) を基に,冠攣縮,CMD,冠微小血管攣縮,非閉塞性冠動脈疾患の位置づけを考えつつ,以下の改訂を行った. 1. 冠攣縮に関連する新たな疾患概念としてMINOCA, INOCAを記載した. 2 冠攣縮の病態,診断,治療において,2013年改訂版 以降の新たな知見を追加した.具体的には, 1 病態では,2型アルデヒド脱水素酵素遺伝子多型,冠微小血管攣縮,薬剤溶出性ステント留置後,小児疾 患との関連2 診断では,基準の見直し,血管内超音波法,光干渉 断層法,血管内視鏡などの血管内イメージング,CTによる冠血流予備量比,磁気共鳴像などの画像診断,冠血流予備能,冠微小血管抵抗指数などの生理学的検査や,内皮機能検査3 治療では,薬物治療,非薬物治療,心臓リハビリテー ションの面から追加を行った. 3 心臓カテーテル検査における冠攣縮薬物誘発試験にお いて,局所的な冠攣縮のみならず,びまん性冠攣縮も陽性とした. 4 比較的太い心外膜の冠攣縮,血管造影では目視できな い血管径の冠微小血管攣縮,さらにCMDの関与する微小血管狭心症について図を用いて関連性を理解できるようにした. 推奨クラスとエビデンスレベル 本フォーカスアップデート版では,推奨クラスとエビデンスレベルについて,表1,2の通り分類する. 表1 推奨クラス分類 クラスI手技・治療が有効・有用であるというエビデンスがある,あるいは見解が広く一致している.クラスIIaエビデンス・見解から,有効・有用である可能性が高い.クラスIIbエビデンス・見解から,有効性・有用性がそれほど確立されていない.クラスIII No benefit手技・治療が有効・有用でないとのエビデンスがある,あるいは見解が広く一致している.クラスIII Harm手技・治療が,有害であるとのエビデンスがある,あるいは見解が広く一致している.