p.45 抽出テキスト
1 日常生活管理―包括的心臓リハビリ テーションなど 狭心症に相当する症状を有する症例のうち,冠動脈造影検査で有意狭窄を認めない例は50%に及び,その発生機序として心外膜側あるいは冠微小血管の攣縮,冠微小循環障害(CMD)がある6, 14, 140).冠攣縮性狭心症やCMDの病因の1つとして冠動脈内皮障害があげられ,IVUS検査で攣縮部位に一致してプラークが存在することが多いことから, INOCAの危険因子も動脈硬化性疾患とほぼ同様と考えられている14, 140).つまり,高血圧,糖尿病,喫煙,脂質異常症,肥満,運動不足などである. 包括的心臓リハビリテーションは,禁忌がなければINOCA患者においても通常の虚血性心疾患同様にクラスIで推奨される6, 431, 432).冠攣縮性狭心症,CMDともに,嫌気性代謝閾値レベルが中~高強度の有酸素運動を 30 分以上,週3回以上(できれば毎日)続ける6, 431, 432).早足歩行,ジョギング,水泳などの全身運動を1週間に140~180分程度継続して行うことが望ましい.運動中または運動直後に狭心症発作が出現することがあり,その場合には2つの機序が考えられる.運動により過換気となり冠攣縮性狭心症が誘発される場合とCMDによるものである.そのような症例においては,運動強度を下げてクールダウンの時間を長めにとり,過換気を予防するようにすると良い.冠攣縮性狭心症が否定されたCMDでは,このような労作性狭心症にβ遮断薬が有効である.冠攣縮性狭心症の危険因子の特徴は,喫煙のリスクが突出していることと433),アルコール多飲,ストレスや寒冷でも発作が誘発されることである(表19) 6, 431–433). INOCA患者における日常生活管理の重要事項は,禁煙,内服治療の継続,運動の継続,血圧の管理,体重管理,脂質異常症の管理,糖尿病であれば血糖値の管理(運動時の低血糖に留意),節酒である. 2 薬物治療 2.1 ファスジル(Rhoキナーゼ阻害薬) 冠動脈攣縮は冠動脈局所の過収縮であり,血管平滑筋の収縮能亢進が主因と考えられている111).血管平滑筋の収縮弛緩制御において中心的役割を担うミオシン軽鎖(MLC)のリン酸化は,ミオシン軽鎖キナーゼ(MLCK)活性とミオシン軽鎖ホスファターゼ(MLCPh)活性のバランスにより決定される(図17) 434, 435).血管平滑筋細胞内において,収縮 性血管作動物質の刺激に応答したホスホリパーゼC(PLC)により生成されたイノシトール三リン酸(IP3)は細胞内筋小胞体からのCa 2+ 放出を惹起する.また,血管平滑筋細胞膜L型Ca 2+ チャンネルも開口し,細胞外からのCa 2+ 流入が引き起こされる.細胞内外からのCa 2+ 放出・流入により細胞内Ca 2+ 濃度は上昇し,カルモジュリンとの複合体を形成してMLCKを活性化する.その結果,MLCはリン酸化され,アクチンとの間で相互反応を起こし血管平滑筋は収縮する.細胞内Ca 2+ 濃度が低下するとCa 2+ はカルモジュリンから解離してMLCK は不活化され,MLCPhが優位となる. MLCPhによりMLC は脱リン酸化され血管平滑筋は弛緩する.一方,RhoキナーゼはCa 2+濃度非依存的に血管平滑筋 第4章 治療に関する新たな知見 表19 INOCA 患者における包括的心臓リハビリテーションの推奨とエビデンスレベル 推奨クラスエビデンス レベル 禁忌がなければ,包括的心臓リハビリテーションを行う6, 431, 432). I A中~高強度の有酸素運動(30 分以上,週3 回以上)を行う6, 431, 432). I B 禁煙を行う433). I A