p.41 抽出テキスト
4.4 末梢血管内皮機能検査の基準値 血管内皮機能障害が動脈硬化の初期から進展,冠攣縮, CMDに至るまで広い病態で中心的な役割を果たしていることに関しては豊富なエビデンスがある.そして,心血管イベントを予測することも証明されている418).しかし,対象や研究デザインの違いや,測定方法の違いから一定の指針が決められていなかった.血管内皮機能検査を日常の臨床現場へ応用し,疾患の管理や治療を行っていくために日本循環器学会と日本血管不全学会によって診断指針が発表された421).臨床の場で利用可能な2つの非侵襲的血管内皮機能検査である前腕駆血法によるFMDとRH-PATでの基準値 を図14 421)に示す.ここに示す基準値は冠攣縮やINOCAを予測するために検討された値ではなく,血管内皮機能と予後を検討した研究報告から検討された値である.今後これらの基準値の妥当性についてはさらに検討される必要がある. 5 生理学的評価 5.1 INOCAにおける冠攣縮と冠微小循環障害 (CMD) INOCAはいくつかの異なる病態生理を包括した概念であり,冠攣縮性狭心症,CMDなどが含まれる.冠動脈の能動的収縮(冠攣縮)に関しては,薬物(アセチルコリン,エルゴノビン)誘発に対する反応性を画像診断法にて確認することにより診断されるが,冠動脈,特に冠微小血管の拡張性の評価においては生理学的検査が必要となる.現在,冠微小血管の拡張反応を評価する方法としてCFR,冠微小血管最大拡張時の血流抵抗を評価するIMRが用いられる.CFRの低下,IMR高値は微小血管狭心症の診断基準の1つとして用いられる.INOCA診断のため検査を行った場合,冠攣縮性狭心症の陽性は約49%,CMDは約41%,両者の合併は約23%存在することが報告されている140). 5.2 CFR CFRは,安静時血流に対して,最大充血時血流がどの程度増えるか,その予備能を表す指標である.心筋の酸素 能,凝固線溶機能,平滑筋増殖においても重要な役割を果たすため,INOCAだけでなく動脈硬化進展や急性冠動脈イベントにも関与する.INOCAにおいても冠動脈内皮機能障害はその後の心血管イベント発生と関連することがわかっている415, 416).さらには,INOCA患者において,非侵襲的なRH-PATを用いて評価した末梢血管内皮機能障害もその後の心血管イベントを予測した417).現在臨床で利用可能な末梢血管内皮機能検査はRH-PATとFMDの2つであるが,メタ解析ではRH-PATとFMDの予後との関連の度合いは同程度であり,どちらの検査も測定値が1 SD(標準偏差)悪化するとその後の心血管イベントリスクが2倍になることが示されている418). このように血管内皮機能を非侵襲的に評価することはINOCAの存在の予測において,またINOCA患者の予後予測において有用性が示唆されている(表17).さらには非侵襲的という特徴から繰り返し評価することができ,患者ごとのモニタリングにも利用できる. 4.3 MINOCAの血管機能評価 MINOCAの機序としては,プラーク破綻またはびらん,冠攣縮,SCAD,CMD,その他の冠動脈有意狭窄はないが酸素需要供給不均衡をもたらすタイプ2心筋梗塞が含まれる(第1章 1. MINOCAを参照).プラーク破綻またはびらん,冠攣縮,CMDにおいては上述のように冠動脈内皮機能障害が重要な役割を果たし,末梢血管内皮機能検査であるRH-PATやFMDで評価した血管内皮機能障害と関連する.SCADと内皮機能障害との関連を検討した研究では一定の結果が得られていない41, 419, 420).しかしながら冠動脈内皮機能障害は多くのMINOCAの機序において関与していることが推察される.MINOCAの発症予測やMINOCA患者における予後予測に血管内皮機能検査が有用であるかどうかは今後の検討が待たれる. 表17 非侵襲的血管内皮機能検査の推奨とエビデンスレベル 推奨クラスエビデンス レベル 冠攣縮性狭心症,冠微小循環障害(CMD)を含むINOCA が疑われる症例に対し,血管内皮機能検査を考慮してもよい. IIb C INOCA 患者の予後予測に,血管内皮機能検査を考慮してもよい. IIb C