p.40 抽出テキスト
は血管平滑筋の収縮作用と血管内皮細胞を介在した血管拡張作用の両者の優位な反応を反映する.実際,INOCA患者における運動負荷心筋シンチグラフィでの心筋虚血や安静時の心筋虚血に,アセチルコリン冠動脈内投与で評価した左前下行枝の内皮機能障害が関与することが報告されている398, 399).微小血管の構造的リモデリングによる微小循環障害においても冠動脈内皮機能障害を合併することは多い80). 現在臨床の場で用いられる非侵襲的な末梢血管内皮機能検査は主に2つであり,血流依存性血管拡張反応(FMD)と指尖容積脈波を用いた反応性充血末梢動脈トノメトリー法(RH-PAT)である.これらの検査による末梢血管内皮機能は冠動脈内皮機能と正の相関があるため,冠動脈内皮機能の推定に有用である400, 401).また,INOCAにおいて冠動脈だけでなく全身の内皮機能障害が存在することはすでに報告されている402–404).INOCAにおける冠動脈内皮機能障害は腎臓の微小循環を反映するとされる尿中アルブミン/クレアチニン比と関連した405).さらに,CMD,冠微小血管攣縮,冠攣縮性狭心症を含むINOCA患者の臀部皮下脂肪を採取し,抵抗血管の薬物への反応性を調べた最近の研究では,末梢動脈の内皮依存性血管拡張反応が低下し,血管収縮物質への反応が亢進していた406).そのため, INOCAにおける心臓の血管障害は全身の血管障害の一部であると考えられ,非侵襲的に末梢血管内皮機能検査を行うことでINOCAを予測できる可能性がある.実際に, FMD,RH-PATそれぞれの検査での血管内皮機能障害がINOCAと関連し400, 407, 408),INOCA患者においてFMDとRH-PATで計測する血管内皮機能障害によってカテーテル検査前の高い予測能が報告されている400, 409).冠攣縮性狭心症患者においてもCMDの合併や,末梢血管内皮機能障害の合併がRH-PATやFMDを用いた研究で報告されている144, 410, 411).しかし,少数の報告においては,RH-PATとFMDはCMDと関連しなかった412, 413).冠攣縮性狭心症, CMDを含むINOCAが疑われる症例に対し,血管内皮機能検査の有用性が示唆されるが(表17),今後のさらなる研究が必要である. 4.2 INOCA患者の予後予測 CMDまたは冠攣縮性狭心症の患者は,心疾患がなく同様の心血管リスクを有する患者に比較して4~5倍の心血管死,心筋梗塞のリスクを有する414).特に,CMDに冠動脈内皮機能障害を合併すると予後が悪いことが報告されている414).そのためリスク評価が重要である.血管内皮機能は血管トーヌスの調節だけでなく,血管透過性,血小板機 4 血管内皮機能検査と血管反応性 4.1 INOCAの血管機能評価 冠攣縮の病態に血管内皮機能障害による一酸化窒素産生・放出の障害が重要な役割を果たしている.しかし,血管内皮機能障害は,動脈硬化全般に認められることであるが,全ての動脈硬化部位に冠攣縮が生じるわけではない.そのため,冠攣縮の病態メカニズムには内皮機能障害を直接的にもたらす遺伝素因群(eNOS遺伝子多型など)や血管平滑筋の収縮能の異常亢進などが複合的に関与していると考えられている.INOCAに関しては他の章(「第1章 2. INOCA」,「第2章 3. 冠微小血管攣縮」を参照)でも詳述されているが,心外膜の冠動脈攣縮に加えて,CMDが含まれる.CMDにおいては,1微小血管の構造的リモデリング, 2微小血管機能障害,のどちらか片方または両方の合併が主要な病態とされる392).構造的リモデリングは典型的には細動脈内腔方向への壁肥厚や毛細血管数の減少(capillary rarefaction)を意味する393).これらの機序により,微小血管の拡張能が低下し,最大血流と酸素供給能が制限される.アデノシンのような内皮非依存性血管拡張物質への冠動脈反応性で評価するCFRの低下やIMRの上昇が構造的リモデリングの評価方法として用いられている.微小血管機能障害は主に抵抗血管として機能するやや大きな細動脈の血管の拡張不全(血管内皮障害 [内皮依存性] または平滑筋障害[内皮非依存性])である392).生理的な作用としては末梢組織の酸素需要増加に伴い抵抗血管において内皮依存性の血管拡張反応が起こる.血管内皮機能が障害された状態においては,血管拡張反応の障害や場合によっては血管収縮を引き起こす394).アセチルコリンの冠動脈内投与による冠血流増加反応を調べることによって冠動脈内皮機能は侵襲的に評価されるが,アセチルコリンは冠動脈に対して2つの作用を有する395–397).アセチルコリンは平滑筋細胞上のムスカリン受容体M3サブタイプに結合することで細胞内へのCaイオン放出を促し血管を収縮させる.一方で内皮細胞上のM3受容体に結合することでCaイオン放出を促し,カルモジュリン依存性に一酸化窒素が放出される.一酸化窒素は血管平滑筋の可溶性グアニル酸シクラーゼ(soluble guanylate cyclase: sGC)を刺激して環状グアノシンーリン酸(cyclic guanosine monophosphate: cGMP)を増加させることにより血管を拡張する.このように,アセチルコリン