p.33 抽出テキスト
2.7 合併症 冠攣縮薬物誘発試験実施において,とくに冠攣縮活動性が高い例や多枝冠攣縮例においては,高度かつ広範な冠攣縮の誘発や,誘発冠攣縮が遷延することがあり,血圧低下や心原性ショック,重症不整脈,心停止などが生じる可能性がある.そのため,硝酸薬の冠動脈内注入による冠攣縮の早急な解除,血圧低下に対する昇圧薬の投与,および重篤な不整脈への即時対応が必要になることがある.合併症に関する最近の報告324)では,アセチルコリンおよびエルゴノビン冠動脈内投与による冠攣縮薬物誘発試験を施行した17,700人中,手技中の重篤な合併症の発生は0.89%に認められており,その中で,死亡が1人(0.006%),急性心筋梗塞が2人(0.01%)に認められている. 3 画像診断 3.1 血管内超音波法(IVUS),光干渉断層法 (OCT) 冠攣縮性狭心症において,冠動脈造影を用いた研究が盛んに行われてきた.しかし冠動脈造影には,血管内腔しか評価できないという大きな限界が存在する.IVUS, OCTといった生体内イメージングの進歩により,冠動脈壁そのものの観察が生体内で可能となり,形態学的特徴から冠攣縮性狭心症の病態や成因を究明することが可能となった.「冠攣縮性狭心症の診断と治療に関するガイドライン(2013年改訂版)」2)の発表から約10年が経過し,形態学的特徴について生体内イメージングを用いた多くの知見が報告されてきた. 3.1.1 IVUS 攣縮をきたす冠動脈は血管造影で有意な狭窄病変が認められないが,軽度の粥状動脈硬化が存在することがIVUSにて報告されている325, 326).さらに,攣縮部は末梢の対照血管径よりも径が縮小した負のリモデリングを高頻度に認める327–329).冠攣縮の形態には局所性攣縮とびまん性攣縮が知られるが,前者の内膜中膜複合体厚は後者のそれに比べて有意に厚く,したがって比較的進行した粥状動脈硬化を背景に局所性冠攣縮が誘発されうることが示唆された330, 331).また局所性攣縮では,プラーク面積やプラー しい158, 322). 2.5.3 得られる結果とその意義 安静狭心症および一部の労作性狭心症において冠攣縮を証明することにより,狭心症として硝酸薬,Ca拮抗薬の長期投与が正当化される.さらに,冠攣縮を誘発する可能性があるβ遮断薬の投与を行うか否かという治療方針決定のための情報も得られる.安静狭心症の重症度の診断において,多枝同時冠攣縮を呈する患者は長期予後が不良であるとされている298).また,潜在する動脈硬化病変と予後との関連も指摘されている147).冠攣縮薬物誘発試験はこのような例で薬剤の投与量や投与期間の決定のための指針となる.冠動脈に有意狭窄病変のない胸痛患者における冠攣縮の除外は,とくに冠攣縮による狭心症が多いとされる日本人において重要である320).近年普及した多列CT装置による冠動脈評価法は陰性適中率が非常に高いため,胸痛患者における冠動脈狭窄病変の除外が心臓カテーテル法による冠動脈造影を行わずに可能となったが,冠動脈狭窄を認めない場合に,狭心症を否定することはできない.一方で狭心症の確定診断を得ずに,漫然と硝酸薬,Ca拮抗薬を長期投与することも問題である.胸痛を有する患者に冠攣縮薬物誘発試験を行い,治療の必要性を決定することは重要である. 2.6 禁忌 冠攣縮薬物誘発試験は患者にとって侵襲を伴う検査であり,検査の適応に関しては,慎重かつ細心の注意を払う必要がある.表12に記載しているように,1 冠攣縮性狭心症を疑わせる症候のない症例で造影検査時に冠攣縮薬物誘発試験は推奨されない,2 急性冠症候群に対する冠動脈造影時に,誘発された冠攣縮により重症合併症の発生が予測される場合(高度心機能低下例,うっ血性心不全例など),冠攣縮薬物誘発試験を行うべきではない.急性期に冠攣縮薬物誘発試験を行う場合,プラーク破綻や特発性冠動脈解離(SCAD)などの他の疾患が確実に除外され,安全性に十分な配慮がなされていることが条件となる.また,アセチルコリンの使用に際して,禁忌に該当する併存疾患(「アセチルコリン(オビソート注射用0.1 g ®)」添付文書を参照)の有無を確認する必要がある.気管支喘息併存患者において,アセチルコリンの使用に関する安全性を検証した後ろ向き研究323)はあるものの,エビデンスは限定的である.