GL検索 v0.1.0
画像は 31 ページを描画したものです
page 31

p.31 抽出テキスト

動脈内投与エルゴノビンの診断率に関する報告は少ない.アセチルコリン誘発同様,本誘発試験実施にあたり注意すべき点も,活動性が高い症例や多枝冠攣縮例においては重篤な冠攣縮が誘発され,また誘発された冠攣縮が遷延し,血圧低下や心原性ショック,重症不整脈,心停止などの危険な状態が起こりうることである.このような場合,硝酸薬(ニトログリセリンまたは硝酸イソソルビド)の冠動脈内注入により速やかに冠攣縮を解除する必要がある.また,血圧低下に対しては,昇圧薬(ノルアドレナリン)の投与も必要となる.重篤な不整脈出現時には,ただちに対応しなければならない.なお,当薬剤は保険適用外である.

2.3.1 標準的誘発試験法 冠動脈内投与法309–315)

1 左右冠動脈のコントロール造影:各冠動脈の分枝が

もっとも分離される方向より造影し,エルゴノビン注入後も同じ方向より造影する. 2 左冠動脈内エルゴノビン注入:生理食塩水に溶解し

たエルゴノビン20~60 μgを数分間(約2~5分間)で左冠動脈内に注入する.注入終了1~2分後に冠動脈造影を行う.心電図の虚血性変化や胸部症状出現時には,その時点で造影を行う.誘発試験陰性の場合は,5分後に右冠動脈誘発試験に移る. 3 右冠動脈内エルゴノビン注入:生理食塩水に溶解し

たエルゴノビン20~60 μgを数分間(約2~5分間)で右冠動脈内に注入する.造影のタイミングは左冠動脈と同様である. 4 硝酸薬投与後の左右冠動脈造影:十分量の硝酸薬を

冠動脈内に投与し,冠動脈が最大に拡張した状態で造影する.左右いずれの冠動脈から誘発試験を開始してもよい.エルゴノビン誘発試験で誘発された冠攣縮はアセチルコリンに比べて,自然寛解する可能性が低く,冠攣縮解除に硝酸薬の投与を必要とする場合が多い316).硝酸薬で解除後に対側の誘発試験を実施することで多枝冠攣縮を診断可能な場合もあり,血行動態が安定している状態であれば,対側のエルゴノビン誘発試験は実施可能である.多枝冠攣縮は,冠攣縮性狭心症の予後規定因子の1つであり,正確に診断することは予後改善の上で重要と考えられる306).エルゴノビン持続投与の際には,投与中に造影を行い,冠攣縮の有無を確認する.

冠動脈内投与法におけるエルゴノビン投与量は,施設ごとに異なる量を用いており,現在のところ一定の基準はない305).過去の報告から投与量は少なくとも左右冠動脈ともに20~60 μgを用いる施設が多く,安全性を考慮すれば,単回投与をなるべく避け,持続投与法を推奨する.持続投

正確に診断,治療することは患者の予後改善の上で重要と考えられる.

2.2.2 感度と特異度168, 299, 307, 308)

異型狭心症を対象とした検討168, 305)では,121人中112人(93%)において,発作時の心電図より冠攣縮の発生が予測された162枝の冠動脈中,144枝(89%)においてアセチルコリン投与により冠攣縮が誘発された(感度89~93%).誘発発作の66%でST上昇を,31%でST下降を,3%で陰性U波の新規出現が認められた.冠攣縮誘発には左右冠動脈とも2/3以上の例で50 μ g以上のアセチルコリンを要した.一方,有意狭窄病変のない非定型的胸痛例を対象とした検討168)では,86人中アセチルコリンにより冠攣縮が誘発された例はなく(特異度100%),軽度~中等度の血管収縮が,一部では血管拡張が認められた.90%以上の高度狭窄病変を有する例を対象とした検討307)では,安定労作性狭心症16人中4人で,心筋梗塞の既往を有する16人中11人で,狭窄部に一致して完全または亜完全閉塞が誘発された.有意狭窄のない例では診断的意義が高いが,高度狭窄を有する例では特異度は低く,診断的意義も少なくなると考えられる.また,日本人の冠攣縮の特徴としては,局所的な冠攣縮のみではなくびまん性冠攣縮も多く認められることが指摘されてきた.びまん性冠攣縮を冠攣縮誘発陽性所見として含めるか否かは,2013年改訂の「冠攣縮性狭心症の診断と治療に関するガイドライン」2)でも,さらなるエビデンスの集積が必要との判断にて,検討課題とされていたが,国内外の報告の現況を考慮し,本アップデート版より診断基準に含むこととした.

2.3 エルゴノビン誘発試験

エルゴノビンはセロトニン受容体とα受容体を刺激し,強力な血管平滑筋収縮作用を有する.異型狭心症例における自然発作時の冠攣縮と経静脈投与エルゴノビン誘発試験時の冠攣縮がほぼ同じであることが明らかとなり309),臨床使用が開始された.誘発試験開始当初は,高用量のエルゴノビン経静脈投与により死亡例も報告されているが310),その後,冠動脈内投与エルゴノビン誘発試験の有用性が報告され,選択的でより投与量が少なくてすむ冠動脈内投与エルゴノビン誘発試験が従来の経静脈投与エルゴノビン誘発試験に替わり普及した311, 312).わが国の多くの施設からエルゴノビン誘発試験に関する研究が報告され,アセチルコリン誘発試験と同様に冠攣縮薬物誘発試験として確立された.経静脈投与エルゴノビンの異型狭心症における冠攣縮の割合は48~85%であるが,異型狭心症における冠