p.25 抽出テキスト
病理学的検討においても,第一世代DESと比較して第二世代DESではステントの被覆率が高く,炎症およびフィブリン沈着が少ないことが示されており257),これらの所見は第二世代DESにおける過収縮反応の減少に寄与していると考えられる. DESによる冠動脈過収縮反応の病態機序として,前述の内皮機能障害とともに血管平滑筋収縮における分子スイッチであるRhoキナーゼ活性化が重要である111).Rhoキナーゼ活性化は,血管平滑筋におけるミオシン軽鎖ホスファターゼ(MLCPh)を阻害し,ミオシン軽鎖(MLC)の脱リン酸化が抑制されることで平滑筋を過収縮させる111). DES留置後の冠動脈過収縮反応におけるRhoキナーゼの関与は,ブタDESモデル258),冠動脈疾患患者259)において示されており,Rhoキナーゼ阻害薬(ファスジル塩酸塩)の冠動脈内注入はDESによる冠動脈過収縮反応を減弱させる.また,DESの構成要素である薬剤,ポリマー,金属ステントの冠動脈過収縮反応への影響についてブタDESモデルを用いて詳細に検討した報告では,ポリマーの使用がステント両端の炎症性変化とRhoキナーゼ活性化を介して冠動脈過収縮反応を惹起することが示された260).一方, DES留置により冠動脈外膜における血管壁内血管増生が惹起され,組織学的に炎症性変化の進展とRhoキナーゼの活性化を認め,血管壁内血管とDES留置後の冠動脈過収縮反応との関連が示された261).ブタDESモデルに18F-FDG PETを用いた検討では,DES留置後の冠動脈周囲脂肪組織(perivascular adipose tissue)の炎症性集積亢進が報告された262).さらに,ブタDESモデルではリンパ管の増生が惹起され,DES留置後のリンパ管結紮により冠動脈過収縮反応が悪化,組織学的には冠動脈外膜の炎症が遷延し,それらがRhoキナーゼ活性化と関連することが示された263).これら一連の検討からは,DES留置後の冠動脈過収縮反応の病態機序としてのRhoキナーゼ活性化には炎症の存在が重要であることが示唆される264).Rhoキナーゼ活性への介入については,ブタDESモデルにおいて長時間作用型Ca拮抗薬ニフェジピンの長期投与がDES留置後の冠動脈過収縮反応を抑制し,炎症反応,微小血栓形成,Rhoキナーゼ活性のいずれも抑制することが示された265). 4.2 診断 PCI後に狭心症症状が持続・再燃する患者における冠攣縮誘発試験の推奨とエビデンスレベルを表10に示す. 4 薬剤溶出性ステント(DES) 留置後の冠攣縮 4.1 病態・疫学 PCI後に狭心症症状が持続・再燃する症例における病態機序には,ステント内再狭窄,ステント血栓症,新規病変の進行など冠動脈の器質的狭窄により生じるものと,冠攣縮(過収縮)あるいはCMDによる冠動脈機能異常により生じるものが想定されている244).ベアメタルステント(BMS)を留置した血管においてもアセチルコリンによる冠動脈過収縮反応をきたすが245),第一世代DES留置血管ではBMS留置部と比較してステント両端のアセチルコリンによる冠動脈過収縮反応の程度が増大する246, 247).DESによる冠動脈過収縮反応は,第一世代・第二世代DESともに報告されており248, 249),中には重篤な症例報告がみられ,実地臨床における重要な課題である.わが国の報告では,第一世代DESを留置し慢性期フォローアップにアセチルコリンによる冠攣縮誘発試験を実施した42人のうち30人(71.2%)に有意な過収縮反応が認められている250).血管内視鏡による内皮被覆度とアセチルコリンの冠動脈内注入による内皮機能との関連を検討した報告では,第一世代DES留置部位の内皮被覆度が低いとステント遠位側の過収縮反応が増大することが示され,低い内皮被覆度とステントストラットへの血栓付着が過収縮反応に寄与する独立因子として同定され251),DES留置後の過収縮反応の機序としての内皮機能障害の重要性が示唆された.その後,2010年前後からわが国に臨床導入された第二世代DESでは,第一世代DESと比較してDESによる過収縮反応は減少した252, 253).PCI後6~8ヵ月にアセチルコリンによる冠攣縮誘発試験を実施し,同一個人内において第二世代DES留置部と非留置部の過収縮反応を比較検討した報告では,両者に有意差は認めなかった254).PCI後の冠攣縮に関連する心血管イベントについても,BMS,第一世代DESと比較して第二世代DESでもっとも少なく(BMS 2.9%,第一世代DES 3.2%,第二世代DES 0.4%),第二世代DESの使用とスタチンの使用が心血管イベントの回避に寄与する独立因子であると報告された255).また,事前にエルゴノビンによる冠攣縮誘発試験で冠攣縮性狭心症と診断された症例にPCIを実施すると,第一世代DESでは冠攣縮性狭心症非合併例と比較して有意に心血管イベントが増加したが,BMSと第二世代DESでは有意差は認めなかった256).