p.15 抽出テキスト
筋酸素の需要と供給の不均衡から心筋虚血を引き起こす(図4).2019年に発表されたESCの慢性冠症候群(chronic coronary syndrome: CCS)に関するガイドライン6)では,臨床現場で頻繁に経験する6つのサブタイプの1つ(CCS V)として,冠攣縮またはCMDを伴う狭心症患者が明確に位置付けられたが,INOCAはこのCCS Vに相当する.図5に示されるように,虚血機序は心外膜冠動脈または冠微小血管の構造的または機能的異常に分けられる.冠攣縮は,心外膜冠動脈または微小冠動脈の攣縮111)により,一過性に冠血流を低下させることで心筋虚血を生じる(supply ischemia/primary angina) (図5).一方,冠微小循環の構造的または機能的異常に起因する冠微小血管の代謝性拡張不全 (CFRの低下)や冠微小血管抵抗の増大(冠微小血管抵抗指数[IMR]の増大)により,労作性狭心症と同様に心筋酸素消費量の増大時に心筋虚血を引き起こす (demand ischemia/secondary angina) (図5).こうした機序は閉塞性冠動脈疾患と併存して心筋虚血に寄与しうるが,INOCAの定義上,閉塞性冠動脈疾患を有する患者は含まないことに留意する必要がある101)(図4). 2.3.2 INOCAにおける冠攣縮 冠攣縮のendotyping/phenotypingの重要性を示唆する知見がいくつか報告されている42, 106, 112–116).わが国で行われた冠攣縮誘発試験の大規模 (1,877人)な後ろ向き検討 2.2 定義 INOCAは次のように定義される: 1 安定した慢性的な(数週間以上の)胸部症状 (典型的な狭心痛)や非典型的症状を有し,2 心筋虚血の客観的な検査所見(安静時または負荷時の心電図,心エコー,MRI,核医学検査,心臓カテーテル検査による心筋乳酸産生の亢進など103–110))を認め, 3 冠動脈造影や冠動脈CT(CCTA)で50%以上の器質的狭窄 (閉塞性冠動脈疾患)や血流予備量比 (FFR) 0.80以下などで定義されるflow-limitingな生理的・機能的虚血を生じる狭窄がないこと3, 101). INOCAは定義上,有症候性を前提にするが,初期評価で非心原性または非虚血性で狭心症様症状を生じうる疾患を十分に鑑別し,その心筋虚血を生じる機序を精査する101). 2.3 病態と疫学 2.3.1 心筋虚血の成因 INOCAにおける心筋虚血の2大成因は,冠攣縮とCMDである.これらは,心外膜冠動脈の器質的狭窄によらずに,単独あるいは非閉塞性の冠動脈疾患との組み合わせで,心 図4慢性冠症候群(CCS)のおもな虚血機序1,2,3,*の病態と機序は重複して存在しうる.INOCAは定義上, 有症候性を前提にし, 器質的有意狭窄を除外する. IOCA: ischemia with obstructive coronary artery disease, INOCA: ischemia with non-obstructive coronary artery disease IOCA INOCA 1労作性狭心症【器質的冠動脈疾患】2冠攣縮性狭心症【機能的冠動脈疾患】 *冠微小血管攣縮【機能的冠動脈疾患】 3微小血管狭心症【器質的・機能的冠動脈疾患】