p.54 抽出テキスト
の既往・重度の高TG血症・コントロール不良な糖尿病や高血圧を合併する場合はHRT慎重投与としている663).またHRTについては年齢以外にも,使用するエストロゲン・黄体ホルモンの種類・量・投与経路・投与方法によって有害事象のリスクが異なることが知られている.たとえば698,098人の女性を対象としたオランダのコホート研究では,心筋梗塞発症リスク比が,エストロゲン経口投与では非使用と同等であったが,経皮投与では有意に低いことが報告されている664).また,HRTを行う際にエストロゲン経皮投与を選択することにより静脈血栓塞栓症リスクが増加しないこと665)や,天然型黄体ホルモンを選択することにより乳癌リスクが増加しないこと666)が報告されている. 日本女性医学学会は,動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版44)に準拠しつつ,女性に特化した「女性の動脈硬化性疾患発症予防のための管理指針」を作成している.その中で,脂質異常症を有し,更年期障害のある女性の場合,生活習慣の改善を試みると同時にHRTを行うことが推奨されている667). 3 家族性高コレステロール血症 (表27) 表27 冠動脈疾患一次予防における家族性高コレステロール血症(FH)に関する推奨とエビデンスレベル 推奨クラスエビデンス レベル 冠動脈疾患予防のため,早期診断,厳格な治療に加え,家族スクリーニングを行う. I Cスタチンを第一選択薬としてLDL コレステロール値100 mg/dL 未満を目標に厳格に脂質を管理する. I C FH ホモ接合体に対しては,LDL アフェレシス治療やPCSK9 阻害薬,MTP 阻害薬の併用を含む積極的LDL コレステロール低下治療を行う. I C FH ホモ接合体および薬物療法抵抗性,小児,妊娠中および挙児希望のFH ヘテロ接合体は専門医へ紹介する. I C 3.1 概念 家族性高コレステロール血症(FH)は,常染色体顕性(優性)遺伝形式をとる遺伝性代謝性疾患である.高LDL-C血症,アキレス腱肥厚をはじめとする腱黄色腫・ 骨粗鬆症の治療を目的として行われるHRTは,1960年代に欧米で広まった.上述のように,閉経後女性におけるCAD発症率の増加にはエストロゲン低下による血清LDL-Cの上昇が大きく寄与していると考えられるので, HRTにはCAD発症予防効果が期待され,これまでに多くの研究が行われてきた. 1990年代に発表された観察研究16件のメタ解析によれば,HRT非使用者と比較した場合のCAD発症リスク比(95%CI)は,過去使用者では0.70(0.63-0.77),現在使用者では0.50(0.45-0.59)であった659).一方で,HRTのCAD一次予防効果を検証するために平均年齢63歳の閉経後女性を対象として行われたRCTであるWomen’s Health Initiative研究では,HRT群でCADの発生が有意に多く,プラセボ群に対するハザード比(95%CI)は1.29(1.02- 1.63) であった660). その後,更年期症状を有する閉経移行期女性を対象に行われた観察研究の結果と,無症状な高齢女性を対象として行われたRCTの結果の相違について検討すべく,さまざまなサブ解析が行われた.特に,19件のRCTを統合した2015年のCochraneメタ解析においては,閉経後10年以上でHRTを開始した女性のCAD発症リスク比が1.07 (0.96-1.20)であったのに対し,閉経後10年未満でHRTを開始した場合には0.52(0.29-0.96)であった661).動脈硬化が進展していない閉経移行期のHRTは脂質プロファイルや血管内皮への作用によりCADに対し予防的効果を示すのに対し,すでにプラークが完成した高齢者に対するエストロゲン投与はプラークの破綻や動脈血栓形成を促進することによりかえってCADを増加させるという,いわゆる「タイミング仮説」が提唱された.この仮説に合致するRCTが2016年に発表された(Early vs Late Intervention Trial with Estradiol研究).このRCTでは閉経後6年未満(平均年齢55歳)と閉経後10年以上(平均年齢65歳)の女性を対象とし,動脈硬化性疾患の代替指標である頸動脈内膜中膜厚(IMT)の進展度合いをアウトカムに設定し, HRT治療群・プラセボ群を5年間追跡した.閉経後10年以上女性ではIMTの進展がHRT群とプラセボ群と同程度であったのに対し,閉経後6年未満女性ではHRT群のほうがプラセボ群に比較し進展が有意に少なかった.すなわち,閉経後時間をあけずに開始したHRTは動脈硬化の進展を抑制した662). これらの知見を基に,日本産科婦人科学会と日本女性医学学会が合同で作成したHRTガイドライン2017年度版では,心筋梗塞および冠動脈に動脈硬化性病変の既往がある場合はHRT禁忌とし,肥満・60歳以上または閉経後10年以上の新規投与の場合・冠攣縮および微小血管狭心症