p.51 抽出テキスト
術を受ける比率が低く,このような過少医療のリスクは,蘇生処置を拒否していない患者でも有意に存在していた621).非認知症者に比し,認知症者が過少医療になりやすいという報告は多くの研究で明らかとなっており,認知症者が非認知症者と同じ治療を受ける可能性は低い.また,非認知症者と同様の薬物治療を開始する場合でも,認知症者では比較的初期から服薬管理が困難になり,服用できないばかりか,意図せぬ過量投与などの事故も起こりうるため,薬物治療を開始する前に,服薬遵守が可能な環境の確認と整備を行うべきである622). 現段階では,認知症者のCAD一次予防についての管理方法については不明である.だたし,否定するエビデンスもないことから,通常の基準に準拠することを推奨するが,過剰降圧や低血糖,服薬状況に注意を払い,個別の判断を優先する. 1.2.4 エンドオブライフ 終末期の定義は種々あるが,日本老年医学会では,終末期を「病状が不可逆的かつ進行性で,その時代に可能な限りの治療によっても病状の好転や進行の阻止が期待できなくなり,近い将来の死が不可避となった状態」と定義している623).CADの一次予防における臨床試験の大半は,エンドオブライフにある高齢者を除外基準としており,生命予後改善の観点からこのような集団に対する生活習慣病治療薬の意義は乏しい.生活習慣病治療薬は,高血圧緊急症や高浸透圧高血糖状態のような病態や,症状のコントロールを目的とした場合にのみ使用し,生命予後改善を目的として使用している場合は,管理目的や管理方法などについて,本人の意思,家族の意向,医学的判断に基づいて個別に判断し,薬物治療の中断も積極的に検討すべきである. 高齢者糖尿病診療ガイドライン2017の「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標2016」602)では“エンドオブライフの状態では,著しい高血糖を防止し,それに伴う脱水や急性合併症を予防する治療を優先する”,日本老年医学会の高齢者高血圧診療ガイドライン2017 599)では“エンドオブライフにある高齢者への降圧療法は,予後改善を目的とした適応はなく,降圧薬の中止も積極的に検討する(推奨グレードB)”,日本老年医学会の高齢者脂質異常症診療ガイドライン2017 600)では“余命が1年以内の患者に対して,服用中のスタチンを中止することは安全であり,QOL向上,医療費削減につながる(推奨グレードB)”と記載されている. 考えるべきであり,服薬アドヒアランスの観点からは1種類と考えられるが,現在のところ,どちらが優先されるか不明である. 高齢者に対してポリファーマシーの是正を行うことによって,薬物有害事象の発生率や死亡率を低下させ,医療費を削減することが報告されている612–614).循環器疾患は高齢者で罹患率が高く,わが国の薬物治療における循環器病治療薬の占める割合は薬剤量・薬剤数ともに大きい.ポリファーマシーに対する循環器病治療薬への介入は,医療経済の面からも重要であるといえる.現段階では,どのような介入が有効であるかは不明であるが,専門家の意見として多職種での介入が推奨されている. 1.2.2 フレイル フレイルとは,「加齢に伴う予備能力低下のため,ストレスに対する回復力が低下した状態」であり,「要介護状態の前段階として位置づけられるが,身体的脆弱性のみならず精神・心理的脆弱性や社会的脆弱性などの多面的な問題を抱えやすく,自立障害や死亡を含む健康障害を招きやすいハイリスク状態を意味する」と定義されている615). フレイルは,どの評価法を用いるかによって重症度が異なることに留意し,各々の臨床研究に記されているフレイルの重症度が,目の前のフレイル患者の重症度に合致しているかについて確認することが必要である.HYVET試験616)とSPRINT試験77)のフレイル高齢者高血圧に対するサブ解析では,いずれも降圧治療によるCADの一次予防効果が認められたが,両試験ではFrailty Indexによりフレイル評価を行っており,CHS基準でフレイルと評価されるような集団(歩行速度の低下や疲れやすさの自覚などを認める集団)はほとんど含まれていないことを考慮する必要がある.したがって,CADの一次予防に対して,同じフレイル高齢者の中でも,比較的壮健な場合は若・中年者と同様の管理が予後を改善させる可能性がある一方,高度な身体機能低下を伴う場合は,予後を悪化させる可能性があるため,フレイルに対しても個別に判断する必要がある. 1.2.3 認知症 CADと認知症は共通の危険因子を持っており77, 617–620), CAD一次予防のための治療は認知症の発症や経過に影響を与える可能性がある.一方,認知症の存在がCADの一次予防に影響を与える可能性も考えられるが,わが国において,認知症者の治療実態を報告した研究は少なく,認知症が認知症以外の治療に及ぼす影響については明らかでない.海外の報告では,認知症者は,ACE阻害薬の投与や,心臓カテーテル検査,冠動脈形成術,心臓バイパス手