p.50 抽出テキスト
るが,個人の事情に配慮する.無理がないように,痛みを感じない程度に,楽しく長く続けられるよう指導する606, 607).また,低栄養状態の高齢者に対して,無理な食事・運動療法は,かえってフレイルを助長する可能性がある.CADの一次予防に対する食事・運動療法については,患者の状態に応じて個別に判断する. 1.2 冠動脈疾患の一次予防において高齢者で 特に注意を要する病態 高齢者においてもCADの予防は,疾患による機能低下の抑制を介してフレイルへの移行を予防し健康長寿に貢献する.したがって,高齢者のCADの一次予防でも,まずは診療ガイドラインで示された標準予防策を遵守することが大切である.一方,ガイドラインの根拠となる大規模臨床研究の対象患者には,さまざまな除外基準が設けられ,超高齢者や複数の疾患をもつ患者は除外されることがある.したがって,臨床研究で示された治療の有効性が,そのまま実際の高齢者に当てはめられるかは不明確であり,期待された効果が得られないばかりか,有害事象を引き起こす原因になる場合もある.そのような,高齢者で特に注意を要する代表的な病態として,ポリファーマシー,フレイル,認知症,エンドオブライフなどが挙げられる. 1.2.1 ポリファーマシー 高齢者の薬物治療では,多剤併用がフレイルのリスクとなり,健康長寿の阻害要因となることが知られている608).診療ガイドラインの根拠となる臨床研究は,一部の限られた母集団が対象であり,多病で個人差の大きい高齢者で,個々のガイドラインで示される薬物治療の単純な足し算が必ずしも最適な治療になるとは限らない.高齢者の薬物療法では,ガイドラインを原則としたうえで,最終的な処方の適正化について総合的に判断する必要がある609). 何剤からポリファーマシーとするかについて厳密な定義はない.海外では5種類以上と定義する研究が多いが,わが国の高齢入院患者を対象に薬剤数と薬物有害事象との関連を調査した研究では,6種類以上で薬物有害事象の発生が増加し610),外来患者を対象に薬剤数と転倒との関連を調査した研究では,5種類以上で転倒の発生が増加した611).これらの結果などより5~6種類以上を多剤併用の目安として,服薬アドヒアランスの低下や薬物相互作用による有害事象の出現に留意し,服薬支援や処方の見直しなどの処方の適正化を検討する.また配合薬を1種類と数えるか,あるいは2~3種類と数えるかについては,先行研究がなく不明である.薬物動態の観点からは2~3種類と 要と考え,インスリン製剤やSU薬,グリニド薬などの「重症低血糖が危惧される薬剤」を使用している場合,HbA1cの目標値をやや高めに設定し,かつ,下限値が設定されている.「重症低血糖が危惧される薬剤」を使用していない場合,カテゴリーIとIIの目標値はHbA1c 7.0%未満で,下限値を設けない.インスリン製剤やSU薬,一部のグリニド薬などの「重症低血糖が危惧される薬剤」を使用している症例では,HbA1cの目標値をやや高めに設定する.カテゴリー分類を行う際,DASC-8を参考にしてもよい603). 1.1.8 肥満604) 高齢者の肥満または肥満症は,若・中年者と同じ基準で診断するが,BMIが体脂肪量を正確に反映しないことがあるため,注意が必要である.具体的には,浮腫が存在する場合や脊椎圧迫骨折などによって身長が短縮した場合は,BMIが実際の体脂肪量に比して高値となる.心血管疾患発症リスクとの関係では,高齢者の肥満がリスクとなるという明らかなエビデンスはなく,一方,ウエスト・ヒップ比の高値やメタボリックシンドロームは,75歳未満の高齢者において心血管疾患の発症リスクとなる.糖尿病診療ガイドライン2019では,75歳以上は,肥満(BMI>25 kg/ m 2)と死亡率上昇との関連性に乏しく,むしろBMI<22 kg/m 2で死亡率が上昇する報告が認められることから,サルコペニアやフレイル発症予防を重視し,現体重を中心にBMI 25 kg/m 2 程度を基準とすることが記載されている604). また,加齢に伴って肥満にサルコペニアを合併したサルコペニア肥満という病態が増加する.肥満単独に比べCADのリスクが高いと考えられているが,サルコペニア肥満の定義や診断基準には一定の見解がなく,結果の解釈には注意が必要である605).サルコペニア肥満に対しては,エネルギー制限と十分なたんぱく質の摂取を行い,レジスタンス運動を行うことが推奨されている604). 1.1.9 生活習慣の修正 運動は,高齢者であっても,生活習慣病の予防・改善を介してCADの一次予防に対する効果が期待できる.運動には,心肺機能改善のための有酸素運動や転倒防止のためのバランス運動,筋量・筋力向上のためのレジスタンス運動などがあるが,個人の運動機能にあわせてこれらをバランスよく行うことが奨められる.また,心肺合併症,関節・脊椎等の整形外科疾患ならびに転倒リスクを勘案し,当日の血圧や体調にも留意し,事故が起こらないよう配慮する.運動前後のウォームアップ・クールダウンも必要である.運動強度,時間ならびに頻度の目安は,中等度以上の強度の運動を1日合計30分程度以上,週に2~3回であ