p.43 抽出テキスト
有する患者は,運動負荷に対する循環応答の低下,起立性低血圧,体温調節障害,視力障害などの要因により運動誘発性有害事象が多いとされる515).心血管系の自律神経障害は心血管死や無症候性心筋梗塞の独立した危険因子であることから,その程度により個々の患者で運動(療法)の可否を決定する515). 骨,関節疾患がある場合には,整形外科と連携しながら柔軟運動や疾患関節のレジスタンス運動など負荷をかけすぎないような適切な運動を行う.慣れない運動には筋骨格系障害のリスクがあり,整形外科的疾患を生じる可能性がある. また動脈硬化性疾患の高リスク患者では,無症候性心筋虚血など潜在的心疾患の可能性もあり,突然死や心筋梗塞を生じる場合がある493).しかし,そのリスクは運動による利益を損なうものではないため,個々の患者に応じた運動がすべての患者に奨められる. 7 喫煙,環境要因,冠動脈疾患(CAD) 発症時対処に関する患者教育・ 市民啓発,高尿酸血症とCAD 本項では,個人環境要因である喫煙や口腔衛生,社会・自然環境要因である季節・気温変動や大気汚染とCADとの関連を紹介する.また,その他のトピックスとしてCAD発症時の対処に関する患者教育・市民啓発,高尿酸血症とCADに関する知見を示す. 上記の他に,睡眠時無呼吸症候群などの睡眠障害(睡眠の質や時間の問題も含む),種々の精神疾患,さらに学歴・収入その他の社会経済的因子も,CADを含む循環器疾患の危険因子または関連要因であることが報告されている.本ガイドラインではこれらの詳細な記載は割愛するが,睡眠障害や精神疾患に対しては各診療ガイドラインに沿って,あるいは専門家との連携を通じて適切な評価・治療を行うことがCADの予後を改善するといわれている21).社会経済的因子や上記の疾患・障害がCADやその古典的危険因子と関連することを認識し22),CADのリスク管理も並行して実施することが重要である. 6.9 座位時間の減少 座位および臥位時間を減少させるために,運動以外の時間もこまめに歩くなど,できるだけ座位・臥位時間を小刻みに中断することが,運動に加えて奨められる493)(表15). 6.10 運動の実際 運動は年齢で一律に区切るのではなく,各個人の体力レベル(持久力と筋力)に加え,合併症,生活スタイルなどにあわせて処方・指導する.有酸素運動で最も多く行われているのは歩行である.導入時は“楽である” ~“やや楽である”程度で行う,運動に慣れてきたら“ややきつい”程度の強度まで増加させることを目標とする. 厚生労働省は,生活習慣病対策として,2013年に健康づくりのための身体活動基準および指針(アクティブガイド)を策定した.生活習慣病を防ぐため,今の生活に運動時間を10分加えるプラステンから始め,成人では60分/日,高齢者では40分/日以上の活動的な生活をおくることを目標としている.運動習慣のない者にはプラステンから始めることが活動量増加のために奨められる494).また,事故防止のため運動の最初の5分はウォームアップ,最後の5分はクールダウンして徐々に負荷を増減させることが重要である515). 6.11 運動のリスクと開始前の医学的評価 これまで運動習慣のない人が運動を開始する前には,合併症の評価,整形外科疾患などを含む身体的状態を把握し,運動制限の必要性を検討する.心血管疾患のスクリーニングに関しては,一般的には無症状かつ中等度の運動を行う範囲であれば必要ない.高強度の運動を行う場合や心血管リスクの高い患者,高齢者では主治医によるスクリーニングと必要に応じて運動負荷試験などを考慮する. 高血圧に関しては,高血圧治療ガイドライン2019 で定義されるIII度高血圧では降圧療法後に運動を行う.II度の高血圧以下で脳心血管疾患がなければ運動(療法)の適応となる.高強度運動は,高血圧患者では運動中の血圧上昇が著明で運動後も内因性昇圧系の活性化も生じる危険がある.安全性を考慮すると中等度にとどめるべきである41). 糖尿病に関しては,増殖型網膜症以上の症例では,ジャンプなど身体衝撃の加わる活動,頭位を下げるような活動,呼吸を止めていきむような活動は控える.自律神経障害を