p.30 抽出テキスト
薬やGLP-1受容体作動薬の一部では一次予防,二次予防を含めた心血管イベント抑制効果が報告されている200–204). αグルコシダーゼ阻害薬205)やピオグリタゾン206, 207)に関しても,心血管イベント抑制を示唆する報告があるものの十分なエビデンスではない.一方,現在わが国で最も使用頻度の高い血糖降下薬であるDPP-4阻害薬に関してはプラセボに対し心血管イベントを抑制ないしは増加させる効果は報告されていない208–211).耐糖能異常や発症早期の糖尿病患者に対するインスリン治療に関してはORIGINでの持効型溶解インスリン製剤を用いた治療介入の結果,プラセボと比較して心血管イベントの増加ないし抑制は観察されなかった212). CADに加え脳血管障害や心不全の発症等を加味したトータルな心血管系アウトカム(CVO)改善に重点を置いた血糖降下薬選択の優先順位については,大規模RCTの結果を重視して考えるのであれば,ほぼすべての大規模RCTで使用が前提とされているメトホルミンが第一選択薬となり,次にSGLT2阻害薬200, 201, 213)とGLP-1受容体作動薬202–204, 214)が続く.注意事項としてSGLT2阻害薬を選択する際はコスト・frailty・易感染性等を考慮する必要がある.GLP-1受容体作動薬についても同様にコストや副作用のプロフィールを考慮する必要があるが,その特性から重症肥満患者には優先的に使用することも検討する. 4.2.3 危険因子の包括的管理 血糖コントロール以外にも,血圧,脂質への介入はCAD発症抑制に有効であることが示されている138, 215–218).たとえば,微量アルブミン尿を呈する2型糖尿病患者に対する血糖コントロール,脂質,血圧に対する包括的かつより厳格な管理を平均7.8年間行ったSteno-2では,循環器疾患リスクが53%有意に減少した(CADのみのハザード比は報告さ さまざまな要因により,CADリスクが大きく異なることから,どのような糖尿病患者集団で検討するかで結果が異なる可能性がある. CADリスクとしての耐糖能異常・糖尿病の特徴として以下の点に留意する.1血糖コントロール状態が悪い(HbA1cが高値である)ほどCADリスクが高い182),2糖尿病診断前段階すなわちHbA1c値がまだ上昇していない耐糖能異常の段階からCADリスクが耐糖能正常者と比較して高い183–185),3微量アルブミン尿期から顕性腎症に進展するほどCADリスクが上昇し,糖尿病性腎症の合併・進展がCADリスクをさらに高める186),4糖尿病網膜症に関してもその進行がCADの進展と密接に関連する187, 188). 4.2 糖尿病,耐糖能異常に対する治療介入の ポイント 4.2.1 厳格な血糖コントロール これまでの介入試験のメタ解析から,血糖コントロールの強化は心筋梗塞の発症を抑制することが示されている189, 190)が,その効果の発現には長期間を要する.2型糖尿病を対象としたUKPDSでは,糖尿病診断後から血糖を厳格にコントロールした群で,より緩やかな血糖コントロールを行った通常治療群と比較して試験期間中(中央値10.4年)の心筋梗塞の発症頻度に有意差を認めなかった191).同様にACCORD,ADVANCE,VADTでも厳格な血糖コントロールによる心血管イベントの有意な抑制効果は介入試験期間内には認めなかった192–194).しかしながら,これらの介入試験でも介入試験終了後の追跡研究によって強化治療での有意な心血管イベント低下効果が認められている195–197).したがって早期(診断早期)からの十分な血糖コントロールが心血管イベント予防には重要である(表12).一方,従来の研究からはインスリンやSU薬を用いた血糖コントロールの強化では肥満の助長や低血糖頻度の増加につながりやすいことが示されており192, 193),これらはCADリスクを上昇させる要因となりうるので,治療介入する上で肥満を助長しないことや低血糖の発現には注意が必要である. 4.2.2 血糖降下薬 現在,わが国で使用可能な血糖降下薬を表13 に示した198).CAD予防の観点からは肥満を助長しない,単独で低血糖を起こさない薬剤の選択が望ましい. 肥満を伴う2型糖尿病ではメトホルミンによる冠動脈疾患の発症抑制効果が示されている199).また,SGLT2阻害表12 冠動脈疾患一次予防における糖尿病患者・肥満者の 管理に関する推奨とエビデンスレベル 推奨クラスエビデンス レベル 肥満,メタボリックシンドローム,肥満を伴う耐糖能異常や糖尿病患者ではまず生活習慣の改善により体重減少を目指すとともに,薬物療法その他のリソースも活用しながら改善可能な危険因子の長期管理に努める. I B糖尿病診断早期から適切な血糖管理を行う. I A糖尿病患者に伴う肥満,高血圧,脂質異常,慢性腎臓病などの高血糖以外の冠動脈危険因子についても包括的に管理する. I B