p.27 抽出テキスト
6ヵ月間まず実行し効果を評価した後に,薬物療法の適用も検討すべきである. わが国で使用可能な脂質異常症治療薬の効果,注意すべき副作用について表11に示す90).LDL-C値の低下を目的としてスタチン,エゼチミブ,陰イオン交換樹脂,プロブコール,PCSK9阻害薬などが用いられ,TG値の低下を目的としてフィブラート系薬,選択的PPARαモジュレーター(SPPARMα,ペマフィブラート),エイコサペンタエン酸(EPA)あるいはn-3系多価不飽和脂肪酸などが用いられ,ニコチン酸誘導体も使用可能である.これら治療薬の有効性・安全性は確立しているが,PCSK9阻害薬に関してはまだ長期投与に関する安全性は確認されていない90).スタチン不耐に関する診療指針2018(スタチン不耐診療指針作成ワーキンググループ)によると,わが国で頻用されるスタチンは副作用としての筋肉痛やクレアチンキナーゼ(CK)上昇などの理由から,15~20%の患者で使用が中断されている142).しかし,これらの患者の発症状況などを詳細に検討すると,スタチンによる副作用以外の原因によるものが大半であり,多くの症例で内服の再開も可能である.スタチンの投薬を中止すべき真の「スタチン不耐」は0.5%程度といわれ,減薬あるいは休薬により対応可能な場合が多い.また,プロブコールにおけるHDL-C値低下はコレステロール逆転送系の賦活によるものであり,動脈硬化抑制的と考えられている143). 3.2.5 高LDL-C血症・高non-HDL-C血症に対する 治療介入 まず優先すべきはLDL-Cの管理目標値の達成である(表10) 39).それが達成された場合,次にnon-HDL-Cの達成を目指す.治療目標もnon-HDL-C値はLDL-C値に30 mg/dLを加えた値と考えてよい144, 145).ただし,これらの目標値はあくまでも到達努力目標として捉え,中・低リスク群であればLDL-Cの20~30%低下を目指す(すなわち到達目標を特定のLDL-C値ではなく減少率とする)ことも妥当である.これは,スタチンを用いたRCTのメタ解析からLDL-Cの20~30%低下により,約30%のCAD発症リスク低下が認められたことを根拠としている39). 一次予防を目的とした高LDL-C血症に対する第一選択薬は,その圧倒的なエビデンスからスタチンが推奨される(表11) 90).わが国でも高用量スタチンによるLDL-C値のさらなる低下によってCAD二次予防効果146)が立証されている.一次予防における高コレステロール血症への薬物療法による介入は,海外での多くのメタ解析でその有効性が示され147–150),日本でも同様にMEGA試験151),J-LIT試験追跡調査(10年間) 152)など一次予防における冠動脈イベン 上昇はCAD発症リスクを増加させ137),一次予防としてのスタチンによるLDL-C低下療法は冠動脈イベントを有意に低下させた138, 139).さらに,日本人で糖尿病性網膜症合併症例のLDL-C低下効果を検討したEMPATHYでは,当初LDL-C管理目標値100~120 mg/dL群は70 mg/dL未満群に対して心血管イベントの改善に有意差がないという結果であった140).しかし同研究ではLDL-C目標値達成率が低かった問題があったため,目標達成集団での再解析を行ったところ,より低値にコントロールした集団での心血管イベント抑制効果が明らかになった141).前述の2021 ESCガイドライン21)でも,糖尿病合併例は中リスクあるいは高リスクとして100 mg/dLあるいは70 mg/dL以下でのリスク管理が推奨されている. このような背景から,糖尿病合併患者ではより強力なLDL-C低下療法が望ましいと考えられ,糖尿病で合併症のある一次予防患者でのLDL-C管理目標値は100 mg/dL未満が望ましいとされた(表10) 39).CKDについては, 2021 ESCガイドラインでは糖尿病と同等あるいはそれ以上のリスク状態とされている21)が,わが国でのエビデンスはいまだ十分とはいえない. 3.2.4 脂質異常症に対する生活習慣の改善と薬物治療 一次予防では原則として「第2章5. 栄養・食事療法,6.運動・身体活動,7. 禁煙,環境要因,CAD発症時対処に関する患者教育・市民啓発,高尿酸血症とCAD」で示すような生活習慣(食事療法・運動療法など)の改善を3~ 表10 冠動脈疾患一次予防におけるリスク区分別脂質管理目標値まず生活習慣の改善を行った後,薬物療法の適応を考慮する 脂質管理目標値(mg/dL) LDL-C Non-HDL-C低リスク(2%未満) * <160 <190中リスク(2-10%未満) <140 <170高リスク(10%以上) <120 <150糖尿病のうち高リスク者** <100 <130 *示される%数は予想される10年間動脈硬化性疾患発症リスク** 糖尿病において,PAD,細小血管症(網膜症,腎症,神経障害)合 併時,または喫煙ありの場合に考慮する TG HDL-C 脂質管理目標値(mg/dL) <150# <175 (非空腹時) ≧40 # LDL-Cおよびnon-HDL-Cの管理目標値が達成された場合に,これらTG値,HDL-C値の管理を検討する.空腹時とは10時間以上の絶食をさし,水やお茶などのカロリーのない水分摂取は可能とする(日本動脈硬化学会. 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版. 2022 39)より改変)