p.25 抽出テキスト
のみをアウトカムとしており,欧米のガイドラインで用いられる予測モデルのように脳卒中は含まれていない.近年わが国の脳梗塞に占めるアテローム血栓性脳梗塞の割合が増加している傾向をふまえ,同ガイドライン2022年版39)では2021年に発表された久山町研究による予測モデルが採用された.この予測モデルはCADに加えアテローム血栓性脳梗塞を含む動脈硬化性疾患(ASCVD)の発症を複合アウトカムとしており,LDL-C値の適切な評価や管理が可能であると判断されたためである39). 3.2.2 動脈硬化性疾患一次予防のアプローチ(図5) 39) 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版では,CAD既往,アテローム血栓性脳梗塞または明らかなアテローム(頭蓋内外動脈の 50%以上の狭窄または大動脈複合粥腫病変)を伴うその他の脳梗塞の既往者は二次予防対象者である.それ以外を一次予防対象者としており,その集団の中でまず臨床的に糖尿病,慢性腎臓病(CKD),末梢動脈疾患(PAD)がある場合は高リスクと考える.それ以外は久山町研究によるスコアを年齢階級ごとに算出し,10年以内の動脈硬化性疾患発症リスクを低リスク(2%未満),中リスク(2~10%未満),高リスク(10%以上)と層別化する(図5) 39).その結果,それぞれに対する脂質管理目標値が設定されている(表10) 39).糖尿病では,PAD,細小血管症(網膜症,腎症,神経障害)合併時,または喫煙ありの場合には,さらに低い目標値であるLDL-C<100 mg/dL (non-HDL-C<130 mg/dL)を考慮するとされている.前述の2021 ESCガイドライン21)では7.5~10%を超える高リスク群での治療目標は100 mg/dLと示されており,糖尿病などの高リスクな状態における厳格かつ強力な脂質低下療法を目指すことが妥当である. なお,久山町研究では40歳以上を対象としており,動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版でも40歳未満の症例における治療方針の検討は主治医の判断に委ねられる39).さらに,脂質異常症への介入のエビデンスでは80歳未満が対象となっていることから,動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版でも40~80歳の成人を対象としたリスク評価・治療目標の決定が可能であることに留意する39). これらの管理目標値は到達努力目標であり,症例により変動しうること,それぞれの症例の持つ特性や生活環境,アドヒアランスなどさまざまな要件を考慮に入れた上で主治医が判断するべきである. 3.2.3 糖尿病合併脂質異常症患者における管理目標 糖尿病を合併する脂質異常症患者の管理に関し日本人のデータが多く示されている.糖尿病患者ではLDL-Cの トリポ蛋白コレステロール濃度,血清アポリポ蛋白B-48濃度の上昇やLP(a)の高値,small dense LDL-Cの上昇などが存在する39, 90, 135).まだ日常臨床でのルーチンの使用に至るほどではないが,従来の脂質異常と独立してCADの危険因子となっており注意が必要である. 3.2 冠動脈疾患危険因子としての脂質異常の 治療 3.2.1 治療目標値設定のための包括的リスク評価と管理 目標の設定 欧米およびわが国で策定されたCAD一次予防のためのガイドラインのいずれも,ハイリスク集団を同定し十分な管理を行うという考え方に基づき,危険因子を包括した予測モデルを用いてCAD発症・死亡の絶対リスクを算出し,その結果をもとに管理方針を決めている. 米国の2018 AHA/ACCコレステロール管理ガイドライン136)では,LDL-C 190 mg/dLを超える高LDL-C血症はhigh-intensity statinを,40~75歳で糖尿病を有する群はmoderate-intensity statinを使用し,それ以外は“ASCVD risk estimator plus”による10年間の推定ASCVD発症率に応じてmoderate-intensity statinの使用あるいはLDL-C低下率の達成で対応すべきとし,具体的な目標値は設定されていない.欧州の2021 ESCガイドライン21)では,一次予防集団(ASCVDを有さない集団)のうち,CKD,糖尿病あるいは家族性高コレステロール血症を有するものは,心血管疾患の高リスク(~きわめて高リスク)群として対応する.これらを有さない集団は50歳未満,50~69歳,70歳以上のそれぞれで,一次予防の低リスク集団における10年間の致死的・非致死的脳心血管イベント(急性心筋梗塞,脳梗塞)の発症率を推算するSCORE2 systemを用いてリスク評価を行う.年齢により違いはあるが,おおよそ7.5%から10%以上の危険因子を有する対象者に関しては収縮期血圧140 mmHg(可能ならば130 mmHg)未満,LDL-Cを100 mg/dL未満に抑制するよう提案し,さらにstep 2として収縮期血圧130 mmHg未満,LDL-C 70 mg/dL未満を目指すことが示されている.しかし,日本のCAD発症率は,欧米に比較して明らかに低いため,欧米で作成されたリスク予測式を日本人に当てはめると,リスクを過大評価してしまうことが複数の日本の地域住民コホートから報告されている42). 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版44)では,絶対リスク予測モデルとして吹田スコアが採用された.それは, CAD発症の絶対リスクが推算できる,LDL-Cを適切に評価できるなどの理由によった.しかし,吹田スコアはCAD