p.20 抽出テキスト
51編357,707人を対象としたメタ解析により,SBPを5 mmHg降圧すると主要心血管イベント(CAD+脳卒中+死亡+心不全による入院),CAD,脳卒中,心不全による入院の発症リスクがそれぞれ約10%抑制されることが確認された82).さらに,その相対リスクの低下作用は,心血管疾患の一次予防と二次予防を問わず,後期高齢者(85歳未満)を含めたすべての年齢カテゴリーにおいて,ベースライン血圧が高血圧域のみならず120/80 mmHg未満,120 ~139/80~89 mmHgでも同等であった82, 83). 以上から,CADの一次予防の降圧目標として,75歳未満は原則として130/80 mmHg未満とする.75歳以上は140/90 mmHg未満を目標とするが,130/80 mmHg未満に降圧できた場合,降圧に伴う臓器灌流障害のほか,薬剤相互作用,服薬アドヒアランス,医療経済効果なども考慮し,忍容性を確認しつつ継続する.JSH2019における降圧目標を表7に示す74, 84).これは血圧高値によりもたらされる脳心血管疾患の予防を目的としている74).急激な降圧,嘔吐・下痢・多量の発汗などは,過剰な血圧低下をきたし,めまい・ふらつき・たちくらみ・失神などの脳虚血症状,腎機能障害,電解質異常を引き起こすことがあるので,特に高齢者では注意する. 2.4 高血圧管理における脳心血管リスク評価 JSH2019 では,予後影響因子の組合せによる脳心血管疾患リスク層別化(図3A)を行い,初診時の血圧レベルとあわせて高血圧の管理を進めることが推奨されている(図3B) 74).正常高値レベル以上(120/80 mmHg以上)のすべての者に対して,生活習慣の修正(塩分制限,果物・野菜摂取,コレステロール/飽和脂肪酸摂取抑制,肥満抑制(BMI 25 kg/m 2未満),運動,節酒,禁煙)を行う.高リスクの高値血圧者および高血圧者(140/90 mmHg以上)には,非薬物療法としての生活習慣の修正を積極的に行い,必要に応じて降圧薬治療を開始する.高リスクの高血圧者では生活習慣の修正に加えて,早期から薬物治療を開始する.低・中等リスク高血圧者では,生活習慣の修正を中心に行い,患者の個別性を評価しつつ,経過のなかで薬物治療の必要性を検討する. 米国の2017ACC/AHA高血圧ガイドラインでは,アテローム性動脈硬化性疾患絶対リスクに基づく脳心血管リスク評価が高血圧管理に用いられている85).この脳心血管疾患全体の絶対リスク評価は,欧米のコホート研究の結果に基づく.わが国でも,脳心血管疾患全体のリスク評価を用いた高血圧管理が望ましい.しかしわが国は,欧米と比較して,CADイベントが少なく,脳卒中が多いという疾病構造の違いもあり(第1章 冠動脈疾患と危険因子の疫学 参照),国内コホート研究に基づく独自の脳心血管リスク評価と連動した包括的な管理目標値の設定が今後の課題である(第2章1 包括的リスク管理とリスク予測モデル 参照). 2.5 高血圧に対する薬物療法 主要降圧薬は,大規模RCTで脳心血管疾患抑制効果が証明されている5つのクラス,すなわち,カルシウム(Ca)拮抗薬,アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬,アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB),少量のサイアザイド系利尿薬とβ遮断薬である74).各主要降圧薬には図4Aに示す積極的適応がある.積極的適応のない場合の高血圧には,Ca拮抗薬,ARBまたはACE阻害薬,サイアザイド系利尿薬のいずれかを第一選択薬とする(図4B) 74).降圧目標が達成されない場合には早めに2剤併用を試みる.さらに降圧不十分であれば,3剤,必要により4剤を併用する. 降圧薬による脳心血管疾患予防効果は,降圧薬のクラスではなく,主として降圧度に依存する79, 86).わが国の高リスク高血圧患者4,703人を対象としたCASE-Jでは,ARBカンデサルタンとCa拮抗薬アムロジピンの間で,狭心症 表7降圧目標:高血圧治療ガイドライン2019 診察室血圧(mmHg)家庭血圧 (mmHg) 75歳未満の成人脳血管障害患者(両側頸動脈狭窄や脳主幹動脈閉塞なし)冠動脈疾患患者CKD患者(蛋白尿陽性) *1糖尿病患者抗血栓薬服用中<130/80 <125/75 75歳以上の高齢者*2脳血管障害患者(両側頸動脈狭窄や脳主幹動脈閉塞あり,または未評価) CKD患者(蛋白尿陰性) *1 <140/90 <135/85 *1 随時尿で0.15 g/gCr以上を蛋白尿陽性とする. *2 併存疾患などによって一般に降圧目標が130/80 mmHg未満とされる場合,75歳以上でも忍容性があれば個別に判断して130/80 mmHg未満を目指す.降圧目標を達成する過程ならびに達成後も過降圧の危険性に注意する.過降圧は,到達血圧のレベルだけでなく,降圧幅や降圧速度,個人の病態によっても異なるので個別に判断する. (日本高血圧学会.高血圧治療ガイドライン2019.2019 74)より抜粋)