p.19 抽出テキスト
2.1 冠動脈疾患の危険因子としての高血圧症 高血圧は冠動脈疾患(CAD)の主要な危険因子である.海外の100万人規模の前向き疫学研究メタ解析Prospective Studies Collaborationによれば,40代から80代の全年齢カテゴリーにおいて,収縮期血圧(SBP)または拡張期血圧(DBP)がそれぞれ120 mmHg以上,75 mmHg以上であれば,CAD死亡が血圧上昇に伴い指数関数的に増加した67).国内11コホート約7万人のメタ解析EPOCH- JAPANでは,心血管死亡リスクが最も低い120/80 mmHg未満と比較して,中年者(40~64歳)と前期高齢者(65~ 74歳)では,120/80 mmHg以上,後期高齢者(75~89歳)では140/90 mmHg以上で,血圧上昇に伴いリスクが増大した68). 2.2 血圧の評価 久山町研究,端野・壮瞥町研究,NIPPON DATA80, IDHOCOにおけるメタ解析などわが国の疫学的エビデンスをふまえて69–73),日本高血圧学会の高血圧治療ガイドライン2019(JSH2019)では,高血圧の診断基準は,診察室血圧140/90 mmHg以上,家庭血圧135/85 mmHg以上とされた74).大迫研究などにより,家庭血圧は診察室血圧より優る心血管死亡の予測能を有することが示されている75).したがって,高血圧の診断において,診察室血圧と家庭血圧に違いがあるときには,家庭血圧による診断を優先する74).診察室血圧は140/90 mmHg以上であるが,いかなる時間帯の家庭血圧でも135/85 mmHg未満あるいは24時間自由行動下血圧測定(ABPM)が130/85 mmHg未満であるものを白衣高血圧とする.降圧薬治療中のものは白衣現象または治療下白衣高血圧と呼ぶ.これらは正常血圧あるいはコントロール良好高血圧者と比較して,短期的心血管イベント発症リスクは同等であるため,原則的にただちに降圧薬治療開始あるいは増強する必要はない.しかしながら,長期的には高血圧への進展や心血管イベントリスク増大がみられるため,家庭血圧測定や生活習慣の修正を奨め,慎重に経過観察する74).また,診察室血圧が140/90 mmHg未満であっても,家庭血圧が135/85 mmHg以上あるいは24時間ABPMが130/80 mmHg以上であれば,仮面高血圧とする.夜間高血圧,早朝高血圧,職場高血圧などが含まれる.仮面高血圧の心血管イベントリスクは,高血圧と同等であるため,降圧薬治療の対象となる74). 従来,診察室血圧120~139/80~89 mmHgの血圧域は,正常および正常高値とされていた.しかし,EPOCH- JAPANやわが国の大規模リアルワールドデータ連結解析 では,脳心血管イベントリスクが120/80 mmHg未満の2倍以上であった68, 76).そこで,JSH2019 では,120/80 mmHg未満を「正常血圧」,120~129/<80 mmHgを「正常高値血圧」,130~139/80~89 mmHgを「高値血圧」とカテゴリーの名称を変更した74).血圧を正常血圧120/80 mmHg未満に保つように,若いころから生涯にわたり,血圧上昇のみならず脳心血管疾患をきたしにくい生活習慣を継続するよう指導する.正常高値血圧レベル以上(120/80 mmHg以上)の場合は,生活習慣の修正を行う74). 2.3 降圧目標 糖尿病や脳卒中既往を有さない50歳以上の高リスク高血圧患者9,361人を対象としたRCTであるSPRINTでは,診察室自動血圧測定SBP 120 mmHg未満(通常の診察室血圧SBP 130 mmHg未満に相当)を目標とした厳格降圧群で通常降圧群と比較して,複合心血管エンドポイント(心筋梗塞,その他の急性冠症候群,脳卒中,心不全,心血管死亡)が25%少なかった77).特に,心不全と心血管死亡の減少がそれぞれ38%,43%と顕著で,総死亡も27%減少した.また,75歳以上の2,636人を対象としたSPRINT高齢者サブ解析でも同様な結果が示された78).SPRINTを含む降圧薬治療に関するRCT 123編613,815人を対象としたメタ解析では,SBP 10 mmHg低下あたり,主要心血管イベントが20%,冠動脈イベントが17%減少し,ベースラインの血圧レベルや併存疾患にかかわらず,SBP 130 mmHg未満を目指した降圧が主要心血管イベント抑制に有用であることが示唆された79). その後公表されたSPRINT最終報告により,SBP 130 mmHg未満を目標とする厳格降圧は心筋梗塞を有意に28%減少することが確認された80).また,高齢者高血圧患者8,511人(60~80歳)をランダム化し厳格降圧(降圧目標SBP 110~129 mmHg)と標準降圧(降圧目標SBP 130 ~149 mmHg)を比較したSTEPにおいて,厳格降圧は,標準降圧と比較して,主要複合エンドポイント(脳卒中,急性冠症候群,急性非代償性心不全,冠動脈血行再建術,心房細動,心血管死亡)を26%,急性冠症候群を33%抑制した81).なお,厳格降圧では,低血圧が30%多くみられたものの,重篤な有害事象(失神,骨折)・めまい・腎アウトカム悪化(1eGFR低下がCKD患者で≧50%,非CKD患者で≧30%,2血清クレアチニン上昇(男性>1.5 mg/dL,女性>1.3 mg/dL),3末期腎不全発症(eGFR<30 mL/分/1.73 m 2))は増加しなかった81). 2021年に発表されたBPLTTCによる降圧薬治療のRCT