p.16 抽出テキスト
ルが海外およびわが国でいくつか開発されており,包括的リスク管理に活用する動きがある23). 絶対リスクは,典型的には10年以内に何%というように一定期間内の確率として示されることが多い.しかし,一般に若年者は高齢者に比べて発症・死亡の絶対リスクが低いため,若年時における10年推定リスクが低くても生涯を通じたリスクは高い場合がある.このように特に若年者においてリスクが小さいかのような印象を与えるのを避けるために,絶対リスクを生涯リスク(lifetime risk)として表現する方法もある.また,直感的な理解を助けるため,リスク年齢(risk age)という指標を用いることがある.リスク年齢とは,対象者のリスクが,理想的なリスクプロファイル(血圧正常,脂質異常症なし,糖尿病なし,非喫煙など)をもつ人の何歳に該当するかを推定したものである24). ランダム化比較試験(RCT)において,10年間の絶対リスクよりもリスク年齢を提示するほうが,生活習慣25)やリスク因子26)の改善の動機づけをしやすいという報告もある. 1.2.1 欧米のリスク予測モデル 欧米の循環器疾患予防ガイドラインでは,性・年齢に応じて定期的な包括的リスク評価の実施が推奨されている.欧州心臓病学会(ESC) 心血管疾患予防に関する臨床診療ガイドライン(2021年) 21)では包括的リスク評価ツールとしてSCORE2/SCORE2-OPが,米国心臓病学会/米国心 臓協会(ACC/AHA)心血管疾患一次予防ガイドライン(2019年) 22)ではPCEが用いられている. 上記の予測モデルはいずれも脳卒中とCADを合わせた心血管疾患の発症および死亡を動脈硬化性疾患(ASCVD)と定義し,その10年以内の絶対リスクを推算するものである. 近年の欧米のガイドラインでは,まずリスク予測モデルから絶対リスクを推算し,それを基に治療方法や目標を患者とともに話し合いながら設定する,という考え方が採用されている.一般に,推算リスクが高いほどより積極的な危険因子の管理が望まれる.また上述の理由から,若年者に対しては,生涯リスクやリスク年齢,および30年リスクの算出が推奨されている.Webやアプリを用いて10年リスクおよび生涯リスク,リスク年齢の算出が可能である(ESC: Cardiovascular Risk Age Calculator Based on the European Society Of Cardiology Heart Score Model 27), ACC/AHA: ASCVD Risk Estimator Plus 28)). 1.2.2 日本のリスク予測モデル(表5) わが国でも循環器疾患リスク予測モデルがいくつか提唱されている29–32).それらの基となったコホート研究として,久山町研究29)や吹田研究30)などがよく知られており,国内の複数のコホートを統合した大規模メタ解析研究として, 表5わが国のコホート研究に基づく心血管疾患の絶対リスク予測モデルの比較 コホート名アウトカムリスク評価期間変数対象者ベースライン追跡期間 久山町研究29)冠動脈疾患+アテローム血栓性脳梗塞10年予後年齢,性,収縮期血圧(mmHg),糖尿病,HDLコレステロール(mg/dL), LDLコレステロール(mg/dL),尿蛋白,現在の喫煙,定期的な運動福岡県久山町在住の心血管疾患既往のない40~84歳, 2,454人1988年24年 吹田研究30)冠動脈疾患+脳卒中10年予後年齢,性,収縮期・拡張期血圧(mmHg),non-HDL・LDLコレステ ロール(mg/dL),HDLコレステロール(mg/dL),喫煙,糖尿病,尿蛋白,心電図(左室肥大)大阪府吹田市在住の心血管疾患既往のない30~79歳, 6,550人1989/1999年16.9年 JALS 31)脳卒中,急性心筋梗塞,脳卒中・急性心筋梗塞の複合アウトカム,全心血管疾患死亡5,10年予後年齢,性,血圧,HDLコレステロール(mg/dL),non-HDLコレステロール(mg/dL),心房細動,BMI(kg/ m2),eGFR(mL/min/1.73 m2),喫煙,糖尿病国内22 の地域住民コホート研究に参加した40~89歳,67,969人2002~2004 年(コホートにより 異なる) 6.9年 EPOCH- JAPAN 32)冠動脈疾患,脳卒中,冠動脈疾患+脳卒中による死亡10年予後年齢,性,喫煙,収縮期血圧,蛋白尿,糖尿病,総コレステロール/HDLコレステロール比,交互作用項(年齢・収縮期血圧,年齢・喫煙)国内8 のコホート研究に参加した心血管疾患既往のない40~79歳, 44,869人1988~2002年12.7年(Honda T, et al. 2022 29), Nakai M, et al. 2020 30), Harada A, et al. 2019 31), Li Y, et al. 2021 32)より作表)