p.12 抽出テキスト
年にかけてのAMIの時代的推移を検討したが,沿岸部の64歳以下の男性では罹患率が増加し,内陸都市部の75歳以上の女性では罹患率が低下していた.研究の初期には,沿岸部や内陸農村部のAMIの年齢調整罹患率は内陸都市部と比べて低いといった地域差がみられたが,研究の後期になると明らかな地域差は認めなくなっていた. 上記のように,わが国におけるCADやAMIの罹患率の時代的推移を検討した疫学研究の成績は一致していない.その理由として,地域によって食生活などの生活習慣が異なりCADの主な危険因子の保有率に地域差があった可能性に加えて,CADやAMIの発症の登録方法や定義が研究によって異なることなどが考えられる.いくつかの研究では特定の性別・年齢階級においてCADやAMIの罹患率の増加が報告されており,その背景として食生活の欧米化などに伴う脂質異常症,糖尿病,肥満などの代謝性疾患の保有率の増加が指摘されている.一方で,CADやAMIの罹患率が低下したとする報告もあり,1990年代以降のスタチンの普及や喫煙率の低下など,危険因子に対する管理の向上の影響が考えられる.今後は,全国規模の疫学調査によりCADやAMIの罹患率の動向を注意深く観察していく必要がある. 2 危険因子の保有率と管理状況 高血圧,糖尿病,脂質異常症,喫煙は生活習慣の改善により修正可能な代表的なCADの危険因子である.集団寄与危険割合の試算によると,これらの危険因子すべてを適切に管理することにより,わが国のCADの発症の半数以上を減らすことが可能だといわれている11).今後,疫学研究やメタ解析での検証が必要と思われるが,いずれにせよ,これらの修正可能な危険因子を包括的に管理することがCADの発症予防に重要である. 2.1 高血圧領域での疫学報告 循環器疾患基礎調査(1980年,1990年,2000年)および国民健康・栄養調査(2010年,2016年)に参加した30 ~79歳の男女の成績12)によると,1980年から2016年にかけて,男性では30代と40代で,女性ではすべての年齢階級で,高血圧の有病率は低下傾向を示した.一方で,50歳以上の男性では変化がないか,やや増加傾向であった.その間に,高血圧者の降圧薬を服用している者の割合(治 療率)は50歳以上の各年齢層で増加し,その結果,降圧薬服用者のうち血圧140/90 mmHg未満を達成している者の割合(管理率)も上昇した.しかし,2010年の時点でも管理率は男女ともに30~50%程度にとどまっており,管理状況はいまだ十分ではない. 同様の結果は,福岡県久山町の40歳以上の地域住民を対象とした久山町研究でも報告されている(表3) 7).本研究では,高血圧の年齢調整有病率は,男性では1961年(38.4%)から1983年(47.7%)にかけて増加したが,その後は2002年(41.3%)にかけて減少傾向に転じている.また,女性では1961年(35.9%)から1983年(41.2%)にかけて増加したのち,2002年(30.8%)にかけては一貫して減少傾向にあった.降圧療法の普及に伴い高血圧者における収縮期血圧の平均値は,男性では1961年の161 mmHgから2002年の148 mmHgへ,同じく女性では163 mmHgから149 mmHgへと大きく低下したが,2002年の時点でも管理状況は不十分であったことがうかがえる. 以上のことから,わが国では,近年,高血圧の有病率は,とくに女性で減少傾向にあるようである.食塩摂取量の低下や降圧療法の普及により血圧レベルは低下したものの,高血圧の未治療者や管理不良者は多く残されており,これらの者を減少させる対策がCADの発症予防において必要と考えられる. 2.2 糖尿病領域での疫学報告 国民健康・栄養調査の成績13)を用いて,1997年,2002年,2007年,2012年,2016年,2019年の6時点で20歳以上の国民における糖尿病の有病率を比較した.その結果,糖尿病が強く疑われる者(HbA1c 6.5%以上または糖尿病治療)の割合は男性では9.9%,12.8%,15.3%,15.2%, 16.3%,19.7%の順で,1997年から2007年にかけて大きく増加した後は緩やかな増加にとどまっていた.また,女性では7.1%,6.5%,7.3%,8.7%,9.3%,10.8%の順で,ほぼ変わらないか緩徐な増加であった. 糖尿病をHbA1cと病歴のみで正確に診断することは困難であり,国民健康・栄養調査ではHbA1cが上昇しない軽症の糖尿病は評価できていない.そこで,久山町研究では1988年以降の循環器健診で40~79歳の受診者のほぼ全員に75 g経口糖負荷試験を実施し,より正確な糖尿病の評価を行っている(図2) 14).その結果,年齢調整後の糖尿 病有病率は1988年では男性14.6%,女性9.1%であったが, 2002年では男性20.9%,女性11.3%と特に男性で顕著に増加し,その後は男性では2012年の19.4%までほぼ変わら