p.63 抽出テキスト
脈を生じ突然死の原因となる疾患として以前から報告され,有病率は1,000 ~5,000 人に1 人とされている677, 678.遺伝性心筋疾患として位置づけられ,細胞間接着斑デスモソームに関連する遺伝子のヘテロ接合変異,もしくは遺伝子複合変異の関与が示唆されている72.しかし,近年では非デスモソームや遺伝子に関連しない例も報告されており679,また右心室のみならず両心室あるいは左心室単独に病変が認められる場合もあり,大きな枠組みとしてACMともよばれている 680 多彩な遺伝的背景,臨床像を呈する疾患であるが,基本 となる診断基準は2010 年に発表されたTask Force Criteria(2010-TFC)となる269.その後,画像診断と遺伝子診断の進歩により,2019 年にはHRS expert consensus statement 680 が,2020 年にはPadua criteria 681 およびESC の診断基準・鑑別診断の評価682 が発表された. ARVC/ACM は心室の構造的変化が軽度もしくは,明らかな心機能低下がない時期から致死性心室性不整脈を発症し突然死をきたしうるため,患者の予後という観点からも早期診断が重要となる.診断とリスク評価に関する推奨とエビデンスレベルを表33 に示す.治療に際してはICDの適応も考慮する必要があり,診断感度のみならず特異性も重視した診断基準が求められる.本ガイドラインでは, 2010-TFC(表34) 680, 681 を基本として,2019 年のHRS expert consensus statement の内容を取り入れて作成した. TFC-2010 は6 項目あり,それぞれ大基準と小基準が設けられている.大基準を2 点,小基準を1 点と計算し,4 点以上で確定,3 点が境界,2 点で可能性という診断に分類される. 4.6.1 全体あるいは局所の機能障害と構造的変化 心室の全体・局所の機能障害と構造的変化は,心エコーもしくは心臓MRI で評価する.特に心臓MRI は多様な表現型を呈するARVC/ACM の診断に有用である.右室造影での評価については,心内膜心筋生検を施行する場合に限り検討することが望ましい.また,ガドリニウム造影MRI 検査は,陰性適中率が高く682,ARVC/ACM の除外診断に有用となる可能性がある.ただし,血縁者がARVC/ACM と診断された場合には,経時的なフォローアップが重要となる. 4.6.2 右室壁の組織学的特徴 2010-TFC では,心筋生検もしくは外科手術の際に採取した心筋標本での評価となっている.右室自由壁での線維置換の所見を認める場合にその残存する心筋細胞の量により大基準,小基準に分類する.この際,脂肪置換の有無は問わない.心臓MRI の画像診断による組織学的評価につ いては診断基準に採用されていないが,近年MRI 画像診断による,局所の壁運動障害の評価と,ガドリニウム遅延造影所見を合わせたARVC/ACM 診断の有用性が報告されているが682,現時点では補助的診断として用いるのが妥当である. 4.6.3 心電図(再分極異常) 再分極異常は,完全右脚ブロック(CRBBB)がなくQRS 幅が120 ms 以上で,右側前胸部誘導V1 からV3(V4以上)のT 波の陰転化を認める場合は大基準の基準とする. CRBBB がなくV1,V2 誘導,またはV4 ~V6 誘導のいずれかでT 波陰転化を認める場合(図28),CRBBB を認め, V1 ~V4 まで陰転化している場合は小基準の基準となる. 14 歳以下については健常人であっても,V1 ~V4 にT 波陰転化がみられることがあり,判定基準には該当しない. 最近わが国から,小児の心電図所見で,下壁及び前胸部誘導でのT 波陰転,前胸部誘導のT 波の不連続性がARVC/ACM の特徴であるとする報告がある 683 4.6.4 心電図(脱分極異常) 右側胸部誘導でのQRS 終末からT 波開始までの低振幅信号であるε波は,ARVC/ACM に特徴的な心電図所見である(図28).ただし,他の疾患でもε波と類似する心電図所見がみられることがあり,慎重な評価が必要である. 表33 ARVC/ACM の診断とリスク評価に関する推奨とエ ビデンスレベル 推奨クラスエビデンス レベル ARVC/ACM の診断に2010 年のTask Force Criteria 269 を用いる. I C 心室機能障害と構造的変化を評価するために,心エコー・心臓MRI を行う. I B ARVC/ACM の診断のために,12 誘導心電図で胸部誘導のT 波の陰転,ε波, QRS 波の終末伝播時間(TAD)を評価する. I B ARVC/ACM を疑う患者にホルター心電図検査を行う. I B ARVC/ACM を疑う患者に家族歴・運動歴の詳細な聴取を行う. I C ARVC/ACM を疑う患者の診断にSAECG 検査を考慮する. IIa B心室の組織学的特徴を評価するために,ガドリニウム造影心臓MRI 検査を考慮する. IIa C