p.99 抽出テキスト
(NO)やプロスタグランジン,血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor: VEGF)などの産生亢進から組織血管の増生や細動脈の拡張が起きるため,出血傾向が強い.鼻出血,肺内出血,喀血などが起きやすく,ときに致死的になる. 出血のみならず,血栓塞栓症にも注意を要する.BTシャントの閉塞やGlenn血流路の血栓,肺高血圧症例での肺動脈内血栓,腎や脾臓の塞栓などが発症する可能性がある1069).これらは脱水や鉄欠乏が危険因子になると考えられるため,管理と指導が必要である.脳血栓症については,虚血性脳血栓のみならず無症候性の微小血栓においても,チアノーゼ性心疾患が危険因子であると考えられている358, 1070, 1071).しかし,前述のように出血のリスクもあるため,抗血小板療法や抗凝固療法を行うかどうかは症例ごとに慎重に考える必要がある(推奨クラスIIb). 15.3 腎合併症 チアノーゼが長期に継続すると糸球体は腫大し,糸球体毛細管拡張やメサンギウム基質の増大が起きる.これらの変化には骨髄巨核球からの血小板由来増殖因子(plateletderived growth factor: PDGF),形質転換増殖因子β (transforming growth factor: TGF-β)の放出やVEGFが関与している1072–1074).機能異常としては蛋白尿,高尿酸血症,糸球体硬化症の合併がある1074, 1075).蛋白尿は30歳代では60%を超える症例に認められ1072),尿中の微小アルブミンの検出は心血管イベントの予測因子になりうる1076, 1077).この状態から徐々に糸球体硬化が進行し,糸球体機能の低下が出現する.いわゆるチアノーゼ性腎症である450, 1075, 1078).治療としてはACE阻害薬の有効性が報告されているが,十分なエビデンスはない(推奨クラスIIb) 1075). 高尿酸血症は赤血球増加と関連し,血清尿酸値は年齢とともに上昇する.赤血球増加による尿酸の産生増加と腎でのクリアランス低下,尿細管での再吸収増加が原因と考えられている.約20%の症例で痛風性関節炎を発症する1079).利尿薬を使用しているとさらに尿酸値は上昇しやすいが,尿酸腎症などの報告は多くないため,無症状の場合は無治療で経過観察されることが多い.10 mg/dLを超えるような著しい高値の症例では治療を行うこともあるが,チアノーゼ性心疾患における一般的な指針はまだ存在しない(推奨クラスIIb).しかし,血清尿酸値と心不全予後との関連を示す報告は多く,今後さらなる研究がまたれる1080). 15.4 冠動脈異常,心筋障害 チアノーゼ性心疾患では冠動脈の拡張や蛇行が高率に認められる1081).心筋の慢性的な酸素欠乏状態への適応現象と考えられているが,心筋梗塞や狭心症の罹患率が高いという報告はない.冠動脈血流量は安静時,負荷時ともに増加しており,冠血管予備能は低下していることが報告されている1082). 慢性的低酸素状態が心筋に及ぼす影響については多くの研究がある.ZO-2などの蛋白質を介して心筋リモデリングを引き起こす1083, 1084).心臓MRIを用いた研究ではチアノーゼ患者でより強い心筋線維化が認められることが知られている1085).しかし,どの程度,あるいはどれくらいの期間の低酸素血症が臨床的にどのような影響を及ぼすかは,明らかではない. 15.5 骨の異常 四肢の骨に起こる異常として有名なのは,ばち指である.爪とその周囲の軟部組織の肥厚から始まり,結合組織の増生やコラーゲン線維の沈着が生じる1086).さらに血管拡張やリンパ球浸潤も伴い,独特な形態を呈する.また,長期にわたるチアノーゼの影響で発症すると考えられているのが肥厚性骨関節炎である1086, 1087).多くの場合,長管骨の遠位端から始まり,骨膜,滑膜,周囲組織の炎症が起こる.無症状のものから強い自発痛や発熱を伴うものまで,さまざまな臨床像がある.骨X線像で骨膜の肥厚や不整を認めることで診断される.非ステロイド性抗炎症薬やステロイド薬による治療が必要となることがある(推奨クラスIIb) 1088). 15.6 脳膿瘍 脳神経合併症で最も重要なものは脳膿瘍である1070).感染性心内膜炎と同様に歯科治療が契機となることもあるが,多くの症例で直接的な原因は明らかでない.しばしば,非特異的な症状(頭痛,気分不快,微熱など)のみであるため,診断が遅れることがある.CTやMRIによる早期診断で予後は改善される傾向にあるが,いまだに致死率は10%である1070). 抗菌薬セフトリアキソンとメトロニダゾールによる治療を6~8週間継続する(推奨クラスIIb) 1089, 1090).膿瘍の部 位により,あるいは被殻化されているために,抗菌薬の効果が不十分な場合は,外科的介入が必要となる1070).