p.80 抽出テキスト
ペースメーカによる心臓再同期療法が試みられている.上下大静脈から三尖弁までのルートの狭窄や完全閉塞,心房内バッフルの残存短絡を合併することがある.狭窄や閉塞に対してはバルーンによる拡張術やステント留置術が有効なことがある. 8.1.2 術後不整脈 心房内血流転換術は心房への侵襲性が高いため,術後に洞不全症候群を引き起こすことがある819).徐脈性の心不全を認める場合はペースメーカ植込みが必要となる.長期的な経過では,本手術は心房内の縫合線が長く,かつ心房心筋の障害をきたすことが多いため,心房粗動,心房頻拍などの上室頻拍を起こすことがある820).術後の頻脈性不整脈は薬物抵抗性を示すことが多いため,高周波アブレーションが試みられるが821),その際,Mustard術後では心房バッフルが経年変化で肥厚して石灰化を伴い,穿刺による左房へのアクセスが困難なことも少なくない.心房間バッフルの形態はさまざまであるが,アブレーションの術前検査として心臓CTによる形態評価が有用である. 8.2 大動脈スイッチ手術後遠隔期の合併症 1980年代から心房内血流転換術に代わって動脈スイッチ手術(ASO)が標準術式となっている.ASOの手術成績は新生児期の積極的な手術介入により近年飛躍的に向上し,25年生存率は97%と報告されるように,生命予後は良好である822).早期死亡の原因としては移植冠動脈の狭窄による心筋虚血の報告が多い. 術後遠隔期の合併症として大動脈弁閉鎖不全(AR),右室流出路狭窄,冠動脈狭窄,不整脈などが報告されている822–835).特にARは経年的に進行するので,長期にわたる観察が不可欠である. 8.2.1 大動脈弁閉鎖不全,大動脈基部拡大 a. 発生率と発生機序 ASO術後遠隔期のARの発生率は5~40%と報告されている.弁逆流の程度は軽度のものが35%と大部分を占め,中等度以上の逆流は経年的に増強することが指摘されている.術後20年では軽度以上のARは61%,中等度以上のARは22%である76, 836–841). ARの発生機序については,大動脈基部の径が小児期を通して拡大することがARの出現と関連があると示唆されている841).解剖学的肺動脈弁は大動脈弁に比べ弁尖が菲薄で脆弱であること,解剖学的肺動脈壁および弁輪の構造的脆弱性による新大動脈基部拡大などの,内的要因の関与が考えられている829, 842, 843).外的要因としては,心室中隔欠損合 併,先行手術としての肺動脈絞扼術,術前の左室流出路狭窄の存在,冠動脈移植に伴うバルサルバ洞の変形,新大動脈基部と大動脈遠位部の口径差が,ARおよび大動脈基部拡大の発生と関連するとされる76, 828, 835–842, 844, 845). b. 外来受診と侵襲的治療の適応 臨床症状と心電図,胸部X線写真,心エコー法などで経過観察を行う.慢性ARでは左室の代償機転により比較的長期にわたって無症状に経過し,左室機能も正常に維持されていることが多い846).しかし,ASO術後ではAR合併がない症例においても,冠動脈移植の影響と考えられる遠隔期の左室心筋灌流欠損や冠血流予備能低下が報告されている847–851).ASO術後における中等度以上のAR合併例では,比較的早期に有意の心拡大や左室機能低下が出現する可能性があることを念頭におく必要がある.胸痛,動悸,失神,労作時呼吸困難などのARによる症状出現に留意しつつ,運動負荷試験や心エコー法による左室機能の継続的評価が必要である. 軽度のARで左室拡大がない無症状例では12ヵ月ごとの定期検査を行う.中等度のARで左室の軽度拡大を認める例は中等度リスクであり,選択的冠動脈造影検査による冠動脈狭窄の有無の確認や6~12ヵ月ごとの心エコー法などによる心機能評価を検討する.左室拡大がなくても,安静時・運動誘発性期外収縮を認める場合は中等度リスクと思われる.左室の中等度以上の拡大や心機能低下,ARに伴う狭心痛や呼吸困難などの自覚症状を伴う症例は高リスクであり,手術適応を検討する(推奨クラスIIa,エビデンスレベルC) 852, 853).特に他の遺残病変を伴うASO術後の重度AR例では厳重な定期的臨床評価が必要である.新大動脈基部拡大はASO術後の比較的早期に急速に進行する.大動脈基部拡大が高度な場合(成人例では基部径≧55 mm 854))には手術を検討する(推奨クラスIIa,エビデンスレベルC). c. 手術とその予後 ASO術後のARに対する再手術としては通常,大動脈弁置換術が行われる(推奨クラスIIa,エビデンスレベルC) 845, 855–857).使用される人工弁は機械弁と生体弁に大別されるが,ASO術後例は多くが非高齢者であることから,妊娠希望の女性を除いて機械弁が選択されることが多い.大動脈基部拡大を伴う中等度以上のARに対してはBentall手術が行われる.ARが軽度以下の大動脈基部高度拡大例(基部径≧55 mm)に対しては弁温存基部置換術(David手術)が可能なこともある858–860).ASO術後の弁置換術の遠隔期成績は比較的良好である845).