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p.68 抽出テキスト

3 総肺静脈還流異常

総肺静脈還流異常(TAPVC)はCHDの1.5~2.5% 672)を占めるチアノーゼ性心疾患で,生後間もなく肺静脈狭窄や還流静脈閉塞(PVO)により低酸素血症,肺うっ血,肺高血圧(PH),呼吸不全を来し,しばしば新生児期に緊急開心術を要する疾患である.外科治療を行わない場合の自然予後は不良で,生後12ヵ月までに75~95%が死亡し,修復術を行わなければ長期生存は望めない673).

TAPVCはすべての肺静脈が体静脈系または右房に還流する疾患である.病型分類は肺静脈の還流部位によるDarling分類674)が一般的に用いられ,I 型(無名静脈・上大静脈に還流),II型(右心房・冠静脈に還流),III型(肝静脈・門脈・下大静脈に還流),IV型(混合型)がそれぞれ約45%,25%,25%,5%を占める.術前のPVOはIII型のほぼ全例,I 型の約半数に合併するが,II型ではまれである675).他の心疾患にTAPVCを合併するcomplex TAPVCは心房内臓錯位症候群に多くみられる676).特に右側心房相同に解剖学的左房は存在しないので,全例がTAPVCを合併していることになるが,心臓以外に還流していることの方が多い.

3.1 修復術の種類

一般的にI 型とIII型では全ての肺静脈血が還流する共通肺静脈を左房後壁に吻合する標準術式が用いられ,長期生存率は95%以上と良好である.また,II型では冠静脈洞-左房間隔壁のカットバックを行い,心房中隔欠損と冠静脈洞をパッチで覆う方法が用いられる677).

近年IV型TAPVCや共通肺静脈の形成が悪い例および単心室例に対し,肺静脈周辺に吻合部を作らないprimary sutureless techniqueが選択されることがあり,従来の術式と比べても劣らない成績が得られている678).また重篤な低酸素やショックなどにより術前の状態が悪い場合や低出生体重児,単心室例などに対して,PVO病変にステントを留置することにより一時的に肺うっ血を解除して開心術を遅らせることが可能となり,高リスク群では予後改善につながる可能性が示唆されている679). 3.2 術後合併症とその管理,治療

3.2.1 肺静脈狭窄

TAPVC修復術後の7~20% 680, 681)にPVOの発症がみられ,危険因子としてDarling分類IV型,共通肺静脈の低形成,心房内臓錯位症候群,単心室など681, 682)が報告されている.術後PVOには大きく分けて2種類あり,吻合部や肺静脈開口部の組織増生によるものと,肺静脈そのものの遺伝学的・組織学的異常によるものとがあるが,後者に対する治療介入は困難である.術後PVOに対する再手術の多くは4~6週間以内に行われており,逆に術後12ヵ月までにPVOを発症しなければその後のPVO発症はまれである674, 675).

TAPVC修復術後に肺うっ血,PHの多くは速やかに軽快するが,遷延する呼吸障害や肺うっ血像を認めた場合はPVOを疑うことが大切である.また,慢性期の狭窄は無症状のうちに進行することがあり,術後1~2年は定期的な画像検索が必要である.心エコー検査では肺静脈の血流パターン(2 m/s以上の血流加速や連続性血流),共通肺静脈と左房との吻合部狭窄の有無,PHの有無を検索することがポイントとなる.しかし片側のPVOの場合,肺血流の再分布が起こって患側の肺血流そのものが減少し, PVOの血流速度が過小評価されることがある.一方でCTによる形態や周辺組織の評価,MRIによる血流測定などの検査では過大評価となる可能性がある.その際は心臓カテーテルによる肺動脈楔入圧の評価や造影検査が有用となる.

PVOと診断されたら早期に積極的な外科治療を視野に入れた検討が望ましい(推奨クラスIIb,エビデンスレベルC).かつては術後PVOに対して肥厚した内膜切除や肺静脈のパッチ拡大が行われていたが,手術死亡および再狭窄を含めても成功率は40%前後と低かった(エビデンスレベルC) 683, 684).一方で1990年代後半より,狭窄した肺静脈前面を肺門部に向けて長軸方向に切開し,肺静脈開口部を有茎自己心膜で覆うsutureless techniqueが報告され685),近年その有効性が報告されている686)(推奨クラスIIb,エビデンスレベルC).またバルーン拡張術やステント留置では,急性期の改善は認めるものの再狭窄が必発とされてきたが,拡張径が7 mmを超えていれば再狭窄のリスクが低下するとの報告もある687).一方,薬剤溶出性ステントかベアメタルステントかの選択に関しては,結論がでていない687, 688).