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p.42 抽出テキスト

り返しになるが,ACHDの糖尿病治療では明確なエビデンスは存在せず,あくまで従来の心不全での糖尿病の治療指針を参考にできるのみである.

治療目標についてはHbA1cを目安にするのが妥当であると思われるが,個々の症例の病状を考えて判断する.

4.1.3 脂質異常症

a. 先天性心疾患での特徴

ACHD患者における脂質プロファイル異常例の割合は報告により異なり,27~60%と幅広い407–409).対照群と比較しての報告もいくつかあり,総コレステロール値,LDLコレステロール値,HDLコレステロール値,トリグリセライド値はACHD群で高いとする報告407, 429)もあれば,ACHD群でも正常とする報告430)もある.リポ蛋白(a)に関してはACHD群と対照群とで差がなかった430).本邦での脂質異常症の正確な合併率は明らかではないが,224例のACHD患者で総コレステロール,LDLコレステロール,HDLコレステロール,トリグリセライドの平均値は正常範囲内であったと報告されている431).

チアノーゼ性CHDでは非チアノーゼ性CHDに比べ,コレステロール値が低いことも報告されている429, 432). b. 管理

脂質異常症の診断については本邦の「動脈硬化性疾患予防ガイドライン」に従う433).治療に関してもACHDに特異的な指針はなく,既報のガイドライン238, 433)を参考にできるのみである.まずは食事療法や運動療法,禁煙を含めた生活習慣の改善を指導する.それでも脂質管理が不十分な場合には,HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)を中心とした薬物療法を行う.なお,脂質異常症の治療適応でない心不全においてはスタチン含めた脂質低下療法は推奨されておらず434),ACHDでも不要な投薬は避けるべきと考えられる.

ACHDで注意する病態として,動脈スイッチ術後や大動脈縮窄があげられる.動脈スイッチ術では冠動脈移植術の移植手技に関連して,除神経435)や冠動脈の異常な血管反応性436),内膜肥厚437)が報告されており,冠動脈疾患の高リスク群である可能性はある.大動脈縮窄に関しても,血管病変や高血圧などのリスクがあり,冠動脈疾患の高リスク群である.大動脈縮窄についてはラミプリルやアトルバスタチンの有効性も報告されている438, 439).

4.1.4 肥満

a. 先天性心疾患での特徴

ACHD患者における肥満の合併率についても検討がなされており,BMIが25 kg/m 2以上30 kg/m 2未満の肥満(1

神経賦活やエネルギー供給不足は,不整脈や心不全発症のリスクを高めることになるので,ACHDでの糖代謝異常に注目する必要がある.

CHDにも多い21トリソミーでは,1型糖尿病の罹患率は非21トリソミーより高く,1.4%から10.6%に上ると報告されている424).その他,Turner症候群やWilliams症候群などCHDを合併する染色体異常でも糖尿病に注意する. b. 管理

ACHDでの糖尿病管理に関しても大きなエビデンスはないので,既存の報告に従うことになる.糖尿病のスクリーニングについては,医療事情は異なるが北米からの提言を参考にすると,45歳以上の症例,または45歳未満でもBMIが25 kg/m 2以上で糖尿病のリスクがある症例では,検査が推奨されている412, 425).また,たとえ検査値が正常範囲内であったとしても,ACHDでは3年ごとのスクリーニング検査を行う(推奨クラスI).検査の手法としては,日本糖尿病学会のガイドラインに従い,空腹時・随時血糖, HbA1cだけでなく,必要であれば75 g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)も実施する426).

治療に関してもACHDの糖尿病に特異的なものは示されていないので,既報に従う.慢性期で急性の代謝失調を伴わない場合は,食事療法や運動療法,禁煙を含めた生活習慣の改善を指導する426).運動療法に関しては, ACHDの病態や状態が多岐にわたるので,個別に指導を行う.それでも血糖コントロールの目標に到達しない場合には薬物療法の追加を検討する.

薬物療法に関しても,心不全を伴う糖尿病の治療指針を参考にすることができるのみである238, 427).近年,血糖降下薬の中でもナトリウム・グルコース共輸送体2(SGLT2)阻害薬は心不全に対して有効性が示されており,北米の提言では心不全を合併する糖尿病治療での第一選択薬となっている427).本邦の「急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)」でもエンパグリフロジンとカナグリフロジンは心不全を合併した糖尿病に対する治療で推奨クラスIIaとなっている238).さらにダパグリフロジンは糖尿病の有無にかかわらずHFrEFの予後を改善したと報告されており241),本邦でもダパグリフロジンはHFrEFの治療薬として保険適用となっている.欧州のガイドラインではエンパグリフロジン,カナグリフロジン,ダパグリフロジンのいずれの薬物も心不全リスクのある糖尿病患者の治療薬として推奨クラスIとなっており428),SGLT2阻害薬はACHDの心不全の治療でも今後重要な薬物となる可能性がある.

一方,チアゾリジン薬は心不全では禁忌238, 427, 428)であり, ACHDでの使用についても慎重に判断する必要がある.く