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p.31 抽出テキスト

2.3 先天性心疾患術後の特殊性

CHDにおけるPHの機序と分類は疾患により異なる300).もっとも多くみられるのが心室中隔欠損などの左右短絡である301, 302).左右短絡は当初の高肺血流によるPHの状態から次第に低肺血流によるPH,いわゆるEisenmenger症候群に進行する303).三尖弁より前の短絡か後の短絡かでEisenmenger症候群に進展する時期が異なる.PVR<4.0 WU(Wood単位)未満が手術適応,≧8.0 WU以上が不適応とされ,その間の4.0~8.0 WUは境界例として肺体血流比(Qp/Qs),酸素またはNOの肺血管反応性評価により手術適否を判断する.また,高肺血流によるPHでも術後PHが残存することがある.最近では肺血管拡張薬の多剤投与の早期導入により,従来手術適応の境界領域や手術困難と診断された中等度の高肺血管抵抗の症例に対して,術前に薬物投与しPHの改善を確認してから手術を行うtreat and repairを積極的に行う施設が増えてきている.本病態は臨床分類ではPHの1群に分類される.

次いで臨床的によくみられるのは,総肺静脈還流異常の術前または術後の肺静脈閉塞病変や先天性僧帽弁狭窄などの左心系閉塞性病変による,受動的PHである304).肺動脈楔入圧が高いことから診断される.左室拡張不全による左室拡張末期圧の上昇でも同様の機序でPHを起こすことがある.本疾患群の治療は原因となる疾患の手術などが中心であり,肺血管拡張薬の投与は肺水腫の危険があるため注意が必要である.臨床分類では2群に分類される.

Fallot四徴や主要体肺動脈側副血行路を伴う疾患群では,末梢肺動脈の低形成や欠損で血管床が少ないためPHとなることがある.術後も末梢肺動脈狭窄が残存することで健側(肺動脈狭窄のない区域)の肺血流が相対的に増加し,区域性のPHをきたすことがある.

Allagile症候群に伴う多発性末梢性肺動脈狭窄は肺血管床の低形成によるPHをきたすことがある.本疾患では門脈PHとなることもあり,PHは複合的で臨床分類では5群に分類される.臨床的には複合的な原因でPHとなることも少なくなく,治療するうえで,肺血管拡張薬の投与に偏らず,手術的な介入やカテーテル治療による介入の可能性を常に念頭に置くべきである.

障害に働く場合(容量負荷や房室弁流増加をもたらし心室機能が低下する場合など)に,その短絡を放置したままPAH治療薬を使用することは,十分な降圧が得られないばかりか心不全の悪化を誘発し,むしろ予後を悪化させることがある.この場合,短絡の修復が行えるかどうかの評価が鍵となる.基本的な考え方はtreat and repair 293)と同じで,短絡修復後の予想される残存PHのコントロールや心機能保持が可能であるかどうか,また,周術期・術後を含め短絡修復に心機能が耐えうるかどうかに関して, CHD-PAH治療経験の豊富な専門医,特にtreat and repairに精通した専門医に相談し,その評価を依頼することが望まれる(推奨クラスIIa,エビデンスレベルC).右左短絡主体の場合,Eisenmenger症候群に至っての右左短絡なのか,それとも構造上や心機能により右左短絡を生じているのかの評価が,薬物治療の方向性を決めるため,経験豊富な施設での診断を仰ぐことが求められる(推奨クラスIIa,エビデンスレベルC).

基本的なPAH治療薬の使用法として,不用意な併用療法による急なPVR低下は高肺血流を招き,降圧が不十分なまま容量負荷が加算されて心不全や逆流性弁膜症が一気に進み,むしろ予後が悪化することがある.また,その結果として心機能低下から短絡閉鎖が不可能となることがあるため,薬物投与についても経験豊富な専門医の判断が必要である(推奨クラスIIa,エビデンスレベルC).PAH治療薬1剤の投与による血行動態評価(右心カテーテル)と心機能評価(心臓MRIや心エコー法)を,3~6ヵ月後に短期的に行い,将来的な短絡閉鎖が可能かどうかを判断する(推奨クラスIIa,エビデンスレベルC).treat and repair治療経験の豊富な専門医に相談した上での施行が望まれる(推奨クラスIIa,エビデンスレベルC).

有意な短絡が存在する場合においては,薬物併用による積極的な血管拡張療法(積極的なtreat)は,短絡閉鎖が十分見込まれると判断される場合にのみ有用であると考えられる(推奨クラスIIa,エビデンスレベルC).PAH治療薬投与(treat)で高肺血流が誘発される場合,心機能が低下せず肺動脈圧も上昇することがなく,PVR<7.5 WU (repair基準)到達の可能性が見込まれるのであれば許容できる(推奨クラスIIb,エビデンスレベルC).このような薬物反応では,慢性効果としてPH改善から短絡閉鎖術施行(repair)につながる可能性がある.

治療効果の評価は症例ごとの状況に大きく左右される.また,症例の集約は難しく,したがってエビデンス構築は将来的にも難しい.今後も経験値の高い専門医の判断に頼らざるを得ないが,レジストリーによる結果の解析は必須である.