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p.29 抽出テキスト

がって,PH重症度,残存心機能,心不全の病態が治療法選択に最も重要な因子となる.

ただし,特に1980年代前半に開発されたカラードプラ装置が普及する以前に手術された症例において,経胸壁・経食道心エコー検査や近年の高解像度のCTスキャン,心臓MRIといった診断機器によって,術後遠隔期に種々の欠損孔や短絡が発見されることがある.特に,人工心肺が十分に使えなかった1970年代以前の手術症例では心機能障害を生じていることもあり,残存短絡の見逃しからPH治療が心不全悪化を招くこともあるので,特に注意が必要である.こういった術後遠隔期に残存短絡が見つかった修復術後PH症例の場合は,欠損孔・短絡の外科的治療をどう考えていくかが鍵となる.

また,PH分類にどう組み入れていくか難しい病態が, PVRが上昇して生じるFontan循環不全である(表14の2). Fontan術後遠隔期には,PVR上昇による肺動脈圧(=静脈圧)上昇からFontan循環不全を来すことがある.エンドセリン受容体拮抗薬(endothelin receptor antagonist: ERA)のボセンタンが,こういったFontan循環不全患者の運動耐容能や血行動態を改善することが報告され285),エンドセリン1とその受容体の過剰発現が生じていることも示されている286, 287).一方,Fontan循環の肺動脈はNO吸入に対してPVRが低下する288)ことや,シルデナフィル投与により換気効率改善から運動耐容能改善が得られる289)ことから,2013年第5回世界肺高血圧シンポジウム(ニース開催)において, Fontan循環不全についてはPH1群(PAH)の項で紹介されている276).さらにその後,本邦からもFontan循環においてシルデナフィル慢性投与がPVR低下や運動耐容能改善をも

PH)はその5群すべての病態を生じうるが,CHDでの特異的なPHは,体肺短絡(左右短絡)血流によって生じる高肺血流がもたらす肺動脈性肺高血圧症(PAH) (1群PH)である.この短絡血流により生じるPAH(shunt-associated PAH: sPAH)の病態に,小短絡を偶発的に合併した特発性PAH(idiopathic PAH: IPAH)を加える形で,CHD関連PAH(CHD-PAH)として4つのサブカテゴリーに分けられている(表14) 276).

高肺血流を生じるような大きな(non-restrictive)短絡未修復のPAHは,Eisenmenger症候群(ES)を生じているか否かで2つのサブカテゴリー(表14の1.3と1.4)に分類される.ESは,「PVRの著明な上昇により高度のPHを生じ,欠損孔を介した相当量の逆短絡(右左短絡)により低酸素血症,チアノーゼを来している病態」と定義されている277).従来,ESまで進行したsPAH症例では,手術による欠損孔閉鎖は禁忌とされ,10種類以上のPAH治療薬が使用可能な現時点においても,その扱いに変更はない.一方,ESに至っていない未修復短絡血流性PAH症例においては,積極的なPAH治療薬使用によるPHコントロールから短絡閉鎖に至る「treat and repair」という治療戦略が注目され,成功例での予後・QOL改善の報告が相次いでいる183, 184, 278–281).そして一部のES症例ですら,薬物治療(treat)によるPHコントロールで結果的に閉鎖(repair)できることがあり,このtreat and repairの手法がトピックとなっている278–280).

次に,小さな(restrictive)短絡を偶発的に合併したCHD- PAH(表14の1.2)の病態の本質はIPAHと考えられ,短絡には右心不全に対する安全弁機能を期待して,ガイドライン上では短絡閉鎖は禁忌とされている276).しかしながら,本邦のIPAH治療成績はきわめて良いため282, 283),IPAHコントロールに関する治療経験がしっかりした施設では,安全弁の必要がない場合には(肺血管や肺心室への容量負荷を減らす,奇異性塞栓を防止するなどの治療上の理由で)この小さな短絡を閉鎖する方向で治療が進むこともある.

残る1つが短絡閉鎖後の遠隔期にPAHを生じている症例(表14 の1.1)であるが,この群は,術後遠隔期に残存PHが徐々に悪化してしまった例と,術後PHはいったん消失したと思われたものの遠隔期に再発してくる例とがある.しかし,いずれの症例においてもPH発見時での対処法に違いはない.また,元々のCHD(原疾患)やDown症候群といった染色体異常の有無により,肺血管閉塞性病変の進行や組織像が異なるとされているが284),すでに修復後遠隔期の有意な残存短絡がない状況では,このタイプのsPAHの治療指針は症例ごとに異なることはなく,残存心機能に応じてIPAHに準じた指針の下に治療される.した表14 先天性心疾患術後遠隔期における肺動脈性

肺高血圧症の臨床像

1. 先天性心疾患関連の肺動脈性肺高血圧症(PAH) 1.1 短絡修復術後•  術直後から残存・悪化したPAH •  術後長期経過後に顕在化(発症)したPAH 1.2 小さな(restrictive)短絡を合併した特発性PAH 1.3  未修復の大きな(non-restrictive)短絡残存によるPAH (Eisenmenger症候群に至っていない) 1.4 Eisenmenger症候群大きな短絡によるPAHの終末像.著明に上昇した肺血

管抵抗により体血圧と同等の肺高血圧を呈し,相当量の右左短絡(逆短絡)による低酸素血症(チアノーゼ)を来している状態2. 肺血管抵抗上昇によるFontan循環不全Fontan循環患者において肺血管抵抗が上昇し,肺動脈圧・静脈圧の上昇をきたし,全身性の浮腫・蛋白漏出性胃腸症・鋳型肺炎・WHO機能分類III度以上の運動耐容能低下などの重篤な循環不全症状を呈する状態(Simonneau G, et al. 2013 276)を参考に作表)