p.23 抽出テキスト
左室のHFpEFや肺高血圧症は右室のHFpEFを招来する危険因子であり,疾患としてはFallot四徴,大動脈縮窄・大動脈弓離断,完全大血管転位などが含まれている14).右室のHFpEFは肝うっ血所見と関連が深く,HFrEFよりも運動耐容能が低く予定外入院が多いと報告されており14), CHD術後心不全における右室HFpEFの病態認識の重要性が示唆される.また,手術による心膜切開や癒着による収縮性心外膜炎様の病態が,CHD術後HFpEFを呈することもある.しかしながら,右室はもとより左室におけるCHD術後のHFpEFに関する知見はまだきわめて限定的であり237),今後のデータの集積によりさらなる詳細な病態把握と予防法・治療法の確立が必要と思われる. 1.2 薬物治療 「心不全」は「なんらかの心臓機能障害,すなわち,心臓に器質的および/または機能的異常が生じて心ポンプ機能の代償機転が破綻した結果,呼吸困難,倦怠感や浮腫が出現し,それに伴い運動耐容能が低下する臨床症候群」と定義されている238).成人心不全の多くの症例においては,左室機能障害が関与しており,日本循環器学会の「急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)」においては,左室駆出率(LVEF)が40%未満に低下した心不全(HFrEF), LVEFが50%以上に保たれている心不全(HFpEF),その境界にあたるLVEFが40%以上50%未満の心不全(HFmrEF)に分類されている238).薬物治療は心不全症状の改善のみならず,予後改善も考慮して行う必要があるが,薬物治療による予後改善効果が証明されているのはHFrEFに対してのみである. CHD術後遠隔期の心不全の病態は多岐にわたっており,その病態に合った管理方法を考慮しなければならない.一方,CHD術後遠隔期症例に対する大規模臨床試験の報告はないため,成人の心不全治療の知見を踏まえた薬物治療がなされている. 1.2.1 HFrEF HFrEFにおいては交感神経系,レニン・アンジオテンシン・アルドステロン(RAA)系が賦活化され,進行性の左室拡大と収縮性の低下が生じ,死亡や心不全悪化などの心血管イベントにつながると考えられている.これらの神経内分泌系を阻害(RAA系阻害薬,β 遮断薬)することで心不全の予後を改善する薬物治療が推奨されている238). CHDの左室機能不全に関して大規模臨床研究は存在しないが,解剖学的左室が体心室を担う疾患での左室機能不全に対する薬物治療は一般的には推奨される. 不全に分けられる.これらの分類の意義は,両者の病態や症状に若干の差異を認めることである.CHD術後心不全においては,CHDには右室病変を持つ疾患群が多いことと関係して,右室不全の割合が非CHDによる心不全に比して多いといえる.表12に右室不全,左室不全の大まかな分類を示してあるが,心室間相互作用により,右室不全は左室の収縮拡張に,左室不全は右室の収縮拡張に少なからず影響を与えていることを常に認識する必要がある233).また,CHDの特殊な病態として,左室・右室不全の双方の特徴を呈しうるFontan循環に代表される単心室不全が存在する. b. 収縮不全と拡張不全 心不全はポンプ機能異常の主因により,収縮能としての「左室駆出率(EF)が低下した心不全」(heart failure with reduced EF: HFrEF)と,「EFの保たれた心不全」(HF with preserved EF: HFpEF)に大きく分類できる.HFpEFは,「EFが保たれているが心不全症状があり,拡張機能異常があるもの」と定義される.もちろん「EFが保たれている」というのは,どのレベルを「保たれている」とするのかやや曖昧であり,かつ軽度に低下したものではHFrEFとHFpEFの混在した病態である可能性もあるため,最近の成人における急性・慢性心不全診療ガイドラインでは「EFが軽度低下した心不全」を別途HF with moderately reduced EF (HFmrEF)としている234).これらの分類が重要性をもつのは,心不全の背景となる原因と主病態,そして治療に対する反応がそれぞれで大きく異なるからである. CHD術後の心不全は,心室が拡大しEFが低下するHFrEFであるとの認識がこれまで一般的であった.しかしながら近年の報告では,CHD術後においてもHFrEF以外に,HFpEFに相当する病態も存在することが示されてきた14, 235, 236).CHD術後のHFpEFは左室,右室ともに認められ,左室では,1 1歳前後という比較的年齢の低い児を中心としていること,2Fallot四徴,大動脈縮窄・大動脈弓離断,総肺静脈還流異常など特定の疾患の手術後に多くみられること,3心室の拡大はないが,求心性肥大を来し,拡張障害を有すること,4血圧が高いこと,5レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系とナトリウム利尿ペプチド系の活性化にアンバランスを認めることなどの特徴を有し235),また心室圧-容積関係を用いた詳細な評価では,安静時に心室の収縮期・拡張期双方のstiffeningと動脈エラスタンスの上昇に示される動脈のstiffeningを認めること236),さらに収縮能,拡張能の予備能低下も認め,それらが冠血流の酸素需給アンバランスと関連していること,などが報告されている236). 一方,右室に関してもHEpEFの病態が報告されている.