p.12 抽出テキスト
ている. 動脈管開存や心房中隔欠損などの単純疾患は,術後は治癒した状態が期待されたが,より長期の予後では一般人に比べ生活習慣病の危険因子を抱えやすく,虚血性心疾患,脳梗塞,心不全や心房細動などの発症率が高いとされる10).Fallot四徴,両大血管右室起始や完全大血管転位などの多くの複雑疾患でも良好な手術成績が得られるが,その長期予後は多くの問題を抱える11).単心室,三尖弁閉鎖や左心低形成症候群などの重症複雑疾患でも,Blalock- Taussig(BT)手術やGlenn手術などの早期介入によりFontan手術の成績が安定したが,その遠隔期死亡率は依然として高い12).現在も長期遠隔期のQOL向上を目指した術式の改良が模索されている13). 複雑疾患術後の長期生存例の増加に伴い,疾患ごと,術式ごとの術後の問題点が明らかになり,予後の改善を期待したカテーテル治療や再手術などの侵襲的治療が積極的に考慮されている.これらの術後遠隔期の問題点には,1肺動脈狭窄や心室中隔欠損遺残などの遺残症,2Fallot術後の肺動脈弁閉鎖不全や成長に伴う人工血管と体格のミスマッチによる狭窄などの,術前には存在しなかった続発症,3術後遠隔期の切開線や心筋負荷により生じる不整脈やFontan術後患者での体静脈圧上昇に関係した蛋白漏出性胃腸症などの,新たな合併症が含まれる. 1.2.2 続発症,合併症への対応 これらの問題を抱えた患者では,日常生活での心血管系への過剰な負荷,精神的肉体的疲労や感染といったストレスなどで容易に循環障害や循環破綻に至り,それが心不全進行や不整脈発生の契機となり,入院治療や死亡に至ることがある.したがって,不慮の事故の予防を見据えた専門的な治療・管理が望まれるが,これらについての知見が乏しい. 心不全では,Fontan循環やFallot術後など右室機能不全を伴う病態が主体であり,左心不全主体の心不全治療を適用できない.また,心室機能異常としては収縮機能障害に加え,拡張機能障害も重要となるが14),左室駆出率(LVEF)で分類した既存のガイドラインをCHD術後患者に適用するには慎重である必要がある.さらに,単心室循環や右心室が体心室の場合には心室再同期療法に関する知見に乏しい15). 不整脈ではカテーテルアブレーションが重要な役割を果たす.治療デバイスの進歩が著しく,一般循環器領域での知見をCHD患者に応用可能な場合も多いが,疾患により解剖学的・生理学的特質が多様で,疾患ごとの知見も限定的である.ペースメーカ治療ではデバイスの性能が著しく進歩し,伝導障害改善機能に加え心機能改善機能や救命 機能も兼ね備えるようになり16),また植込み型除細動器(ICD)も使用される17).単心室循環や体心室が左心室でない患者での心室ペーシングでは,心室同期性を考慮しなければならない15, 18). 肺循環異常・障害はCHD患者によく観察され,肺高血圧症はその代表的病態である.近年,肺高血圧症の治療は劇的に進歩したが,複雑CHD患者のみならず単純CHD患者での知見も十分とはいえない19). aortopathyは多くのCHD患者に見られる病態だが,その管理・治療法は標準化されていない20).患者の高齢化に伴いサルコペニアなどの体組成も意識した運動や栄養管理が重要とされる.これらの関連からも,高血圧や糖脂質代謝異常などの生活習慣病はACHDの病態に悪影響をもたらし,予後悪化要因となる21). 脳神経発達障害,精神疾患はQOL低下の大きな要因である.新生児期の外科治療での完全循環停止,術後急性期の高度の循環不全や低酸素血症,循環不全の遷延,長期挿管などが脳神経系後遺障害に関連することがある22).加えて,うつ病などの精神疾患の罹患率が高く,予後と関連することから23),全人的な長期の経過観察が重要かつ不可欠である. 1.3 術後経過観察 CHD術後の経過観察の特徴は,幼少期から成人期以降へと,成長と発達を伴うことである.成長に伴い修復形成・再建された直接侵襲部位と非侵襲部位との発育バランスの差が新たな狭窄などをもたらすため,修復時は良好な結果でも,定期的な経過観察が不可欠である. 乳幼児では家族の病状理解と経過観察に対する協力が重要で,家族の理解不足や誤解は小児患者の身体発育と精神発達に影響する.幼年期,学童期の成長には適正な身体運動が必要不可欠であり,患者の術後心肺機能に見合った運動を促進すべきだが,心不全や突然死の可能性がある場合には十分な説明と対処が必要である.小学校高学年生から中学生以降では「移行」を意識した診療を心がける.危険因子の多い場合を除いて,将来の自立促進を意識した管理・指導が好ましい. 成人期以降の患者は,CHD本来の病態に加えて生活習慣病予防を意識した生活管理・指導が重要である.また,就業,社会支援,女性では妊娠出産の問題と対峙する機会が多くなる.家族や社会環境,本人の意思を尊重し, QOL向上を目指した診療が不可欠になる. 手術法が発展途上であった時期のACHD患者では遺残