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p.8 抽出テキスト

緒 言

冠動脈疾患(coronary artery disease: CAD)は先進国において依然として高い罹患率を示し,主たる死因のひとつとして挙げられている.CADは急性冠症候群(acute coronary artery: ACS)と安定CADに大別される.血行再建はACSにおいてその有用性が確立されており,治療の根幹として位置づけられている.一方で,安定CADの患者に対する血行再建の有用性については数多く大規模のランダム化比較試験(randomized controlled trial: RCT)が行われてきたが,今なおその位置づけは明らかでない.特に,果たして血行再建が安定CADのアウトカムを明確に改善するのかという命題に対しては,20年間以上エビデンスを示せずにいるものの1),世界的には安定CAD患者に対して広く血行再建が行われている.本邦でも年間10万件以上の安定CADに対する経皮的冠動脈インターベンション(percutaneous coronary intervention: PCI)が施行されており,そのうち約1/3は無症状の患者に実施されていることが知られている2).

こうした状況下で2020年にInitial Invasive or Conservative Strategy for Stable Coronary Disease (ISCHEMIA)試験(付表1,2[p.35,36])

1, 3-5)の成績が公

表された.ISCHEMIA試験は本邦4施設を含む320施設で実施され,中等度および重度の虚血を伴う5,179例の安定CAD患者を早期侵襲的戦略群(冠動脈造影後1ヵ月以内にPCIまたは冠動脈バイパス術[coronary artery bypass grafting: CABG])を施行)と早期保存的戦略群(至適内科治療[optimal medical therapy: OMT]を優先,必要に応じて血行再建を施行)の2群にランダムに割り付け追跡した.その結果,一次エンドポイント(心筋梗塞[myocardial infarction: MI]・心血管死・不安定狭心症や心不全による入院・心停止後蘇生)の発生率に群間差を認めなかった.同様に,二次エンドポイントであるMI・全死亡の発生率においても群間差を認めなかった.

ISCHEMIA試験は過去の臨床試験と比較して1登録症例数が多い,2大多数の症例(76%)において非侵襲的画像検査により中等度以上の虚血の存在が確認されている, 3生活習慣の是正を含むOMTの良好なコントロールが遂

行されていた,という重要な特徴がある.そして,中等度以上の虚血を呈する安定CAD患者に対し,積極的な危険因子の是正やOMTの実施が,イベント予防ならびに患者報告アウトカム(patient-reported outcome: PRO)改善のために有効であることを示した.しかし,このようなエビデンスの実装にはいくつか注意すべき点がある.例えば採用基準・除外基準を正しく認識する必要がある.後述のごとく,ISCHEMIA試験では,ACSや増悪型・難治性狭心症など,臨床現場多くの議論を要する疾患群が除外されていることを特に念頭におくべきである.

こうした最近のエビデンスの集積に伴い,安定CADに対する管理・治療戦略の見直しが必要な状況となった.日本循環器学会(JCS)では,すでにこの領域では2つの診療ガイドライン「慢性冠動脈疾患診断ガイドライン(2018年改訂版)」60)と「安定冠動脈疾患の血行再建ガイドライン(2018年改訂版)」5a)が策定されているが,それらに含まれない重要な情報をフォーカスアップデートとして策定することが2021年に決定された.

このフォーカスアップデートは最近の大規模研究のエビデンスに基づき,安定CADの管理全般に求められる指針を提供することを主たる目的としている.実行可能性の高いガイドラインを策定するためには,最新の臨床試験のエビデンスに加え,本邦の実臨床の状況,患者の選好や医師―患者の関係性など多くの因子を加味する必要があり,関連学会との意見交換を経て現段階でもっとも合理的と考えられる提言をまとめるに至った.ガイドライン策定委員は,関係学会(日本心臓病学会,日本心臓血管外科学会,日本核医学会,日本心血管インターベンション治療学会,日本冠疾患学会,日本胸部外科学会,日本医学放射線学会)の代表班員から構成された.