p.96 抽出テキスト
A 背景,本CQ の優先度 わが国では超高齢化社会により大腿骨頸部/ 転子部骨折が増え,年間17 万件と報告されている476).また,そのうち2% に重症大動脈弁狭窄症(AS)が合併しているという他国の報告もある477).つまり,3400 人/ 年がこの課題に遭遇すると推定される. 大腿骨骨折の手術が遅れると,生命予後が悪化することが報告され,英国NICE のガイドラインでは「翌日までに手術をすることを推奨」とされている23).日本整形外科学会診療ガイドライン2021 でも「なるべく早期の手術が重要」とされている478).(詳細はBackground question を参照) 大腿骨近位部骨折は高度の疼痛を伴い早期手術には鎮痛効果がある479). 高齢者ではAVR 自体にリスクがある(例:83 歳女性(日本人患者平均年齢),155 cm,45 kg として,SAVR STS score 480):死亡7.6%,合併症と死亡25%).TAVI もリスクがある(K-TAVI レジストリ:30 日死亡1.3%,stroke 3.8%,OCEAN TAVI レジストリ:死亡率1.7%,disabling stroke 1.7%) 473, 474).近年,大腿骨近位部骨折手術の麻酔として,全身麻酔や 脊椎麻酔以外に,神経ブロック(大腿神経,大腿外側皮神経,坐骨神経など)といったより低侵襲の麻酔についても報告され始めている481). 高齢者の大腿骨頸部/ 転子部骨折患者でAS は周術期のリスクになるか,術前にAVR をすべきかどうかを検証する必要がある.他の手術と分ける理由は,患者が高齢者に限定されること,通常,準緊急手術とされることから,推奨を作成する意義が高いと判断した. B エビデンスの要約B.1 CQ 重症AS 合併した高齢者の大腿骨頸部/ 転子部骨折患者に対し,術前にSAVR,TAVI を施行することを推奨するか? これに直接答える研究がないため,analytic frameworkを行い,以下の2 つのkey question(KQ)に分けた. KQ5-1 重症AS は大腿骨頸部/ 転子部骨折手術周術期のリスクになるか? PECO P:高齢者,大腿骨頸部/ 転子部骨折患者, E:重症大動脈弁狭窄症あり, C:大動脈弁狭窄症なしKQ5-2 大腿骨頸部/ 転子部骨折手術患者でAVR(SAVR, TAVI)施行後は未施行に比較し,周術期のリスクが下がるか? PECO P:高齢者,重症AS を有する大腿骨頸部/ 転子部骨折患者, E:AVR 施行後, C:AVR 既往なし, O:アウトカムとして,パネル会議にて以下を承認した.益のアウトカム:30 日以内の死亡(アウトカムの重大性: 9,以下同),心臓死(9),心不全(7),心筋梗塞(7),1 年後の死亡率(9) 害のアウトカム:疼痛(8),せん妄(8),褥瘡(8),ADL自立(9),感染症(8),歩行予後(8),出血,合併症(周術期,1 年)(7),非心臓手術の延期日数(7)を承認した. また基礎的な背景知識を,Background question 大腿骨近位部骨折の手術タイミングはいつがよいか?としてまとめた. B.2 KQ5-1 とKQ5-2 KQ5-1:3 つの後ろ向き観察研究が存在した.採用論文:Leibowitz 2009 482),McBrien 2009 377),Rostago 2019 483) KQ5-2:CQ4 のKQ4-2 が使えるか検討したが,AVRから手術まで時間がかかっていること,高齢者大腿骨近位 CQ 5重症大動脈弁狭窄症(AS)を合併した高齢 者の大腿骨頸部骨折,転子部骨折患者に対し,術前に大動脈弁置換術(AVR)(外科的大動脈弁置換術(SAVR),経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI))を施行することを推奨するか? 重症AS を合併した高齢者の大腿骨近位部骨折患者に対し,血行動態が安定している場合,AVR(SAVR,TAVI)を施行せずに,厳重な血行動態の管理(*)のもと骨折手術をすることを提案する.GRADE 2D(推奨の強さ「弱い推奨」/ エビデンスの確実性「非常に低」付帯事項血行動態が安定化できない症例では,術前に経皮的大動脈弁置換術,バルーン大動脈弁形成術を行うことは選択肢になりうる. (*) 厳重な血行動態の管理:以下を含む. 1 麻酔科医,循環器内科医,整形外科医などの集学的チー ムによる術前,術中,術後管理2 特に術後は血行動態の安定を確認するまでは必要に応 じHCU,ICU,または厳格に血行動態がモニターできる適切な場所での管理 推奨