p.70 抽出テキスト
第5章 術後の心筋傷害のサーベイランス 1 非心臓手術後心筋傷害 周術期には心筋梗塞の診断基準を満たさないレベルで心筋傷害が生じていることが報告されている447).非心臓手術の術中または術後30 日以内に発症した心筋虚血に起因する心筋傷害は非心臓手術後心筋傷害(MINS)と呼ばれている447)。MINS はその後の死亡と有意かつ独立して関連していることが報告され448),近年その臨床的重要性が議論されている. 1.1 診断基準 これまでに報告された臨床試験のMINS の組み入れ基準に準じて,MINS の定義と診断基準を作成した(表58) 449, 450). 1.2 臨床的特徴 MINS は非心臓手術の約8 ~18% で発生するが,約84 ~93% は自覚症状や心電図変化に乏しいと報告されている448, 450).術後に使用される鎮痛薬や創部の痛みで胸部症状がマスクされることが原因の一つと考えられてい る451).MINS は病態に応じて,type 1 とtype 2 に大別される452)(type 1,2 については第4 章2.1 周術期急性心筋梗塞の機序を参照).MINS 発症のリスク因子として,心不全の既往,慢性腎臓病,冠動脈疾患,心筋梗塞の既往などが報告されている321). 1.3 MINS の予後 MINS の予後に関して,以下の報告がある. 2014 年に報告された大規模観察研究であるVISION 研究では,術後6 ~12 時間後,2 日目,3 日目にトロポニンを測定した。心筋梗塞の基準を満たさない無症候性の心筋傷害が30 日死亡リスク上昇と独立して関連していた(ハザード比[HR]3.87,95% 信頼区間[CI]2.96-5.08) 448). 心血管ハイリスク患者2018 例(2546 件の手術)を対象としたBASEL-PMI 研究では,術前,術後1 日,2 日目にトロポニンを測定した。MINS 発症は30 日死亡リスク上昇(9.8% vs 1.6%: HR 2.73,95%CI 1.54-4.84)および1 年死亡リスク上昇(22.5% vs 9.3%: HR 1.58,95%CI 1.16- 2.15)と独立かつ有意に関連していた453).また,30 日心血管死亡率の増加(4.9% vs 0.5%)および1 年心血管死亡率の増加(9.1% vs 2.6%)との関連が示された453). 14 試験3318 例を対象としたメタ解析では,トロポニン上昇は手術後1 年後の全死亡率(オッズ比[OR]6.7, 95%CI 4.1-10.9)の独立した予測因子であることが示された454). 術後3 日間の高感度トロポニンT 値のピーク値を3 群(20~<65,65 ~<1000,≧1000 ng/L)に分け,基準群(<5 ng/L)と予後の比較を行ったところ,虚血症状の有無にかかわらず,高感度トロポニンT の上昇は,高い30 日死亡率と有意に関連していた450). このように,MINS は不良な短期および長期予後と関連することが示唆されている. 表58 MINS(myocardial injury after noncardiac surgery)の定義と診断基準 定義 非心臓手術の術中または術後30 日以内に発症した心筋虚血に起因する心筋傷害 診断基準 術後トロポニンが上昇と低下,または低下パターンを呈する敗血症,肺血栓塞栓症,心房細動などの非虚血原因が認められない心電図変化や心エコーで新たな壁運動異常の出現,負荷心筋シンチで新たな虚血所見の出現は必須ではない(Foucrier A, et al. 2014 449),Devereaux PJ, et al. 2017 450)を参考に作表)