p.65 抽出テキスト
とされ,虚血性心疾患患者と比較しても1.69 倍高いとされる307).45 歳以上を対象としたVISION 研究のサブ解析でも,心房細動合併例で非合併例と比較して非心臓手術後30日の心臓血管イベントリスクは高かった(26.6% vs 9.0%,ハザード比[HR]1.58).なお,AF 患者の塞栓リスク評価に用いられるCHADS2 スコアが,周術期の死亡,脳卒中予測に有効であった418). 11.1.2 マネージメント もともと維持薬として投与されていた抗凝固薬,β遮断薬,抗不整脈薬の周術期における継続,中止については循環器内科と協議のうえ行う.特に抗凝固薬については注意が必要である.アブレーション後,洞調律を維持していても術前にルーチンに抗凝固薬を中止してはならない203). 11.2 周術期に新たに発症した心房細動 (POAF) 11.2.1 定義 POAF はさまざまな定義がある.「術中,ないし術後入院中に新たに発症した30 秒以上持続するか,記録時間が30 秒以下の場合は記録中持続する心房細動とするもの」419)や,持続時間に言及せず「術中,ないし術後30 日以内に新たに発生する心房細動」とするものもある420). 11.2.2 頻度 日本におけるPOAF 発症率は10% であり,POAF 発生患者では,術後合併症の発症頻度が高い421).海外のデータより頻度は高いが,日本では入院中のECG モニターの期間が長いことが影響している可能性がある421).各手術後のAF 発生率を表55 に示す421-424). 11.2.3 発生に関連する因子 POAF の主な発症リスクは,患者の年齢,併存心疾患,高血圧の既往である425).開胸手術と開腹手術で差はないが426),腹腔鏡手術よりは開腹術で424),また手術時間が600 分を超えると発生リスクが増加すると報告されている427). 11.2.4 短期および長期予後 a. POAF と死亡率 POAF は術後2 日目にもっとも発生し,入院期間の延期,院内死亡の増加と関連する425).また,POAF は冠動脈バイパス術後428),非心臓手術429, 430)の長期にわたる死亡リスクとされる. b. POAF と術後合併症 日本におけるがん手術時のPOAF 発症は急性期合併症と関連しており,POAF 患者の50% で術後30 日以内の合併症(急性心筋梗塞,うっ血性心不全,出血,血栓症,感染,急性腎障害)を認めた(オッズ比2.84) 421).そのほか,肺炎,敗血症,胸水貯留などの急性期合併症と関連するとの報告もある431).POAF が出現すると,何らかの術後合併症の可能性を考える必要がある. c. POAF と遠隔期心房細動再発 POAF は,手術侵襲がその発生に関連していると考えられるが,術後遠隔期のAF 再発率も高いことが報告されている.日本からの報告では1 年以内に31% でAF 再発を認め,非PAOF 患者と比較して有意に高かったが,多くは無症状であった432). d. POAF と脳梗塞発症率 1 年以内の脳梗塞のリスクはPOAF 患者で1.47%,非POAF 患者で0.36% であった.非心臓手術におけるPOAF は心臓手術と同様,脳梗塞発症と関連していた(HR 2.0,95%CI 1.7-2.3) 433).複数のメタ解析で,POAF は術後早期,および長期的な脳梗塞発症と関連し,長期的な死亡率増加とも関連すると報告されている429, 430). 11.2.5 予防 β遮断薬は心房細動発症率を減少させるが,脳梗塞はむしろ増加したという報告がある169).2019 年にアップデートされたコクラン・システマティック・レビューでは,β遮断薬は心房細動を減少させるかもしれないが,徐脈や低血圧を増やす可能性があり,術後30 日以内の死亡率減少効果は不明としている172).これらのデータから,β遮断薬は心房細動予防のみの目的での使用は推奨されない.ACE 表55 術後心房細動発症率 手術の種類発症率心臓胸部手術16 ~46% 422)非心臓胸部手術0.4 ~12% 422)肺手術(楔状切除) 2 ~4% 421)肺手術(葉切除) 10 ~15% 422)肺切除(片肺切除) 20 ~30% 422)食道がん(食道切除) 4 ~10% 422)大腸がん4.4% 423)高齢者大腿骨骨折3.7% 424) (Higuchi S, et al. 2019 421),Fabiani I, et al. 2019 422),Leibowitz D, et al. 2017 423),Siu CW, et al. 2005 424)を参考に作表)