p.63 抽出テキスト
されている393, 394).重症AR 群と非AR 群の非心臓手術予後が後ろ向きに検討された395).高齢者(平均年齢75 歳),中リスク非心臓手術が多く(68.9%),高リスク手術はわずかにしか施行されていない(3.6%).AR 群は非AR 群に比べて,非心臓手術周術期死亡率(9% vs 0%),合併症発症率(長期人工呼吸器13.8% vs 3.0%,肺水腫4.8% vs 0.5%,重症不整脈3.0% vs 0.6%)とも高かった395).死因は15 例のうち9 例が肺炎・呼吸不全であった.術前に弁置換術を行うと,これらの合併症や死亡率が改善するかは不明であるが,自覚症状または左心機能低下がみられる重度AR は,通常ならば弁置換術のClass I 適応である19).第4 章8.4術前の弁膜症治療についての考え方に記載したことを個別に評価し,非心臓手術前に行うかどうかを吟味する. 8.5.4 僧帽弁閉鎖不全症(MR) MR の合併は非心臓手術施行時のリスク因子として認識されている393, 394).後ろ向き観察研究では,MR 症例で非MR 症例と比べて心筋梗塞発症率(2.7% vs. 0.9%,p = 0.02),心不全発症率(17.5% vs. 12.8%,p <0.001)が高いものの,入院死亡率(1.7% vs. 1.1%,p =0.43)は有意差がなかった396).この研究では,器質性MR は21% のみであり,大半は機能MR であったため解釈には注意が必要である.手術適応のある重症器質性MR の場合,非心臓手術に先行して弁膜症手術をするかどうかは,第4 章8.4術前の弁膜症治療についての考え方を吟味して決定する. 周術期における弁膜症に関する推奨とエビデンスレベルを表52 に示す. 9 高血圧症 9.1 高血圧の周術期リスク 高血圧は,さほど強いリスクではないものの周術期の心血管イベントのリスクとして広く認識されている397-399).30もの観察研究を評価したシステマティック・レビューとメタ解析では,高血圧症は心血管系合併症リスク増加(オッズ比1.35)と関連していた400).手術の緊急性によって術前評価や治療に割ける期間が異なるが,不適切な管理によっては重大な弊害を起こす可能性もあり,十分に注意する必要がある. 9.2 術前評価 術前評価で未治療の高血圧が認められた場合には,基本的な病歴,身体所見,採血,検尿,ECG で高血圧性臓器障害や合併症のスクリーニング,適応があれば二次性高血圧の精査を行う399).特に脳血管障害,左室肥大,冠動脈疾患,腎機能障害など,周術期合併症が生じやすい既知の病歴がないかをチェックする. 手術に際して,I ~II 度の高血圧399)(収縮期血圧180 mmHg 未満,拡張期血圧 110 mmHg 未満)であれば,手術を延期させる理由とはならない401, 402)(表53).III 度の高血圧では,内服治療により血圧を安定させるまで手術を遅らせることのメリットとデメリットを個別に判断して手術の可否を決定する必要がある. 9.3 周術期管理 正常血圧の患者でも,麻酔導入の際には,交感神経刺激により,20 ~30 mmHg の血圧上昇と,15 ~20/ 分の心拍数上昇が起こる403).この反応は,高血圧患者でより顕著になる.もともと高血圧をもつ患者では,術中の血圧変動のリスクが高まり,それにより心筋虚血が起こりうる404).一方,周術期の低血圧にも脳虚血,心筋虚血,腎虚血は合併症の発生や死亡に関連する405-409). 高血圧と糖尿病を合併した患者の非心臓手術を対象とした試験では,1 時間以上続く平均血圧20 mmHg 以上の低下と,15 分以上続く平均血圧20 mmHg 以上の上昇が,術後合併症のリスクであることが示されている404).特に平 表52 周術期における弁膜症に関する推奨とエビデンスレ ベル 推奨クラスエビデンス レベル 無症候性重度大動脈弁狭窄症症例に対する適切な血行動態モニター下での非心臓手術の実施を考慮するIIa B左室機能の保持された無症候性重度大動脈弁閉鎖不全症または僧帽弁閉鎖不全症症例に対する適切な血行動態モニター下での非心臓手術の実施を考慮するIIa C付帯事項:AS に関しては,CQ4 も参照.症候性弁膜症の場合,第4 章8.4 術前の弁膜症治療についての考え方を参照