p.62 抽出テキスト
c. TAVI,BAV のエビデンス 近年,AS 治療においてカテーテル治療が急速に普及しつつある.BAV を先行させた60 例とTAVI を先行させた58 例の治療成績が報告されている387).大動脈弁治療から非心臓手術までの平均待機日数はBAV 群で11.0 日, TAVI 群で28.0 日であった.BAV 群の33%,TAVI 群の74% でうっ血心不全を合併していた.非心臓手術成績は, 30 日死亡率1.7%(BAV 1.7%, TAVR 1.7%),心筋梗塞発症率0%,脳梗塞発症率0.8%(BAV 0%, TAVR 1.7%),心不全発症率3.4%(BAV 3.3%, TAVR 3.4%)であった. Okuno らは非心臓手術に先行してTAVR を7 例に実施し,平均待機日数37 日で,入院死亡,心有害事象なく非心臓手術を実施できたと報告している388). TAVI,BAV なし群との比較研究はなく,画一的な推奨作成は困難であるが,症候性AS で,特に血行動態が不安定な症例では,非心臓手術術前の選択肢になりうる. d. 非心臓手術術前の重症AS への介入 症候性重症AS は予後が悪く389-391),AVR が推奨される19).一方,あまり延期できない緊急性の高い手術の場合, AVR と非心臓手術の順番の問題がある.さらにAVR リスクが非常に高い場合もある.選択肢として,1AS への介入を先行,2非心臓手術を先行,3どちらかのみ行う, 4どちらも施行しない,などが考えられる.AS への介入は,AVR(外科的または経皮的),BAV がありうる. e. 関連する他の診療ガイドラインi. 日本循環器学会2020 年改訂版弁膜症治療の ガイドライン19)推奨文はないが,本文に以下の記載がある.「重症 AS患者の緊急非心臓手術は,心臓麻酔科医による侵襲的な血行動態またはTEE を用いた管理下で行うべきである.待機的非心臓手術の管理は症状の有無と手術の種類によって決まる.有症候性重症AS では,非心臓手術に先行してSAVR/TAVI を施行すべきである.」「無症候性重症AS の場合は,心不全増悪のリスクはあるものの,待機的非心臓手術は安全に行うことが可能である.ただし,無症状でも循環血液量の大きな変化を伴う高リスク非心臓手術では,SAVR/TAVI を先に行うことを考慮する.」ii. AHA 弁膜症マネージント診療ガイドライン2020 392) 無症状の中~高度AS で収縮能正常の場合,待機手術を施行することはリーゾナブルである(Class IIa,B). iii. 2017 ESC/EACTS Guidelines for the management of valvular heart disease 230)推奨文はないが,以下の記載がある.Figure より,「症候性AS の場合,AVR リスクが低ければAVR を先行する.もし,外科的AVR のリスクが高いならば,厳重なモニタ リングのもと非心臓手術を行う,または,TAVI,BAV は治療選択肢である.」 本文から,「無症候性AS ならば,非心臓手術を安全に行うことができる(ただし,心不全リスクは増加).水分のシフトが大きい手術ならAVR を考慮する.」iv. 本診療ガイドラインのPart 2(第6 章)CQ4 重症AS を合併していても,無症候性AS ならば,予防的に外科的・経皮的大動脈弁置換術を行わず,非心臓手術をすることを提案する(GRADE 2D)(推奨の強さ「弱い推奨」,エビデンスの確実性「非常に低」).症候性AS は,症例ごとの吟味が必要と結論した. v. Part 1 での推奨 Part 2 に則る.すなわち,無症候性AS は,予防的に外科的・経皮的大動脈弁置換術を行わず,非心臓手術をすることを考慮する(推奨クラスIIa,エビデンスレベルB).症候性の場合,非周術期ではAVR がClass I 適応であるが,周術期では個別の症例で吟味が必要である.すなわち,第4 章8.4 術前の弁膜症治療についての考え方に記載したことを吟味する.外科医,麻酔科医,循環器内科医など関係する多専門科集学的チームがリスク,ベネフィットを包括的に吟味し,患者の価値観を理解し,協働意思決定(図2)をすることが重要である. 以下に例を挙げる.AVR のリスクが低く,十分延期できる待機的手術ならば,AVR 先行となる.AVR のリスクが高いか,患者が希望しない場合,厳重な血行動態の管理のもと非心臓手術を行うこともありうるし,重症AS のために非心臓手術リスクが非常に高いならば,どちらも施行しないことも考えられる.血行動態が不安定のために緊急性の高い非心臓手術が施行できないならば,BAV を先行することも考慮する. 8.5.2 僧帽弁狭窄症(MS) MS の合併は非心臓手術施行時のリスク因子である392-394).中~高リスク非心臓手術で,自覚症状または肺高血圧症(収縮期肺血圧≧50 mmHg)がみられる重度MS 症例では,経カテーテル的僧帽弁交連切開術や僧帽弁置換術を先行し,非心臓手術の手術リスクを軽減することを考慮する.弁膜症治療を先行するかどうかは,上述したとおり,リスクの評価が重要である.もし非心臓手術を先行する場合,術中,術後に適切な血行動態モニターを施行することが重要である. 8.5.3 大動脈弁閉鎖不全症(AR) AR の合併は非心臓手術施行時のリスク因子として認識