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p.60 抽出テキスト

7.4.2 右室前負荷の適正化

水分管理に際して右房圧の評価が参考になる.容量負荷は低血圧患者に対して行われる一般的な処置であるが,すでに右室充満圧が上昇した右心不全患者には心拍出量増加作用は乏しく,三尖弁逆流や心室中隔による左室圧排が増悪する症例が存在し360),むしろ利尿薬や透析による除水が奏効する場合がある352).残存する右心機能や急性・慢性経過により個々の至適右房圧は異なり,低血圧や低心拍出状態の改善をモニタリングしながら8 ~12 mmHg の間で調整する359).

7.4.3 昇圧薬

顕著な低血圧症例に必要となるが,α1 刺激薬フェニレフリン361)やα1β1 作動薬ドパミンは肺血管抵抗/ 全身血管抵抗比を上昇させる懸念があり,あまり使用されない352).一般的にα1β1 作動薬ノルエピネフリンが多用されているが,肺血管抵抗/ 全身血管抵抗比を上昇させるという報告があり362),注意を要する.臨床での使用実績は限られるが,バソプレシンは体血管特異的に作用し,肺血管抵抗を上昇させない昇圧薬として期待される362).

7.4.4 右室収縮低下への強心薬

強心薬は心拍出量低下例に必要となるが,ホスホジエステラーゼIII 阻害薬ミルリノンやβ1β2 作動薬ドブタミン製剤が一般的に使用される358).いずれも心拍出量増加作用と肺血管抵抗低下作用があり,肺血管抵抗/ 全身血管抵抗比も改善させる352).RCT はないが,肺高血圧症例に対す

る臨床使用実績も豊富である358, 359).カルシウム増感剤levosimendan がドブタミンより小児肺高血圧患者の心臓手術に有効であったとする小規模の前向きRCT が報告されているが363),わが国では未発売である.

7.4.5 肺血管拡張薬

上記対策が無効な例には肺血管拡張薬の使用を検討する.エポプロステノール持続静注364)やトレプロスチニル持続静注365)・皮下注によるプロスタサイクリン製剤の全身投与は強力な肺血管拡張作用が期待できる反面,体血圧を低下させるリスクがあり周術期使用の報告は少ない.一方,吸入療法は換気領域の肺血管にのみ直接作用するという投与経路から体血圧低下の副作用は少なく,かつ換気血流不均衡改善作用366)もあり,周術期緊急時に使用しやすい.エポプロステノール367),イロプロスト368),一酸化窒素369)が吸入療法として使用されていると報告されている.またホスホジエステラーゼV 阻害薬370, 371)やエンドセリン受容体拮抗薬372, 373)も内服可能例には選択肢となる.

周術期には,肺高血圧増悪以外にも低血圧の原因となる病態が混在するため,その鑑別と治療を表51 336)に示す.

表51 肺高血圧患者の周術期低血圧の鑑別と治療

体血圧低下の原因心拍出量中心静脈圧その他の異常原因疾患治療

SVR 低下維持上昇または低下SVR 低下敗血症敗血症治療体血管収縮薬(ノルエピネフリン,フェニレフリン)肺血管拡張薬前負荷減少低下低下出血輸液不足輸液,輸血

PVR 上昇低下上昇PVR 上昇低酸素,高二酸化炭素血症,アシドーシス左記の是正体血管収縮薬肺血管拡張薬(NO 吸入など)

右室収縮力低下による心拍出量低下低下上昇肺動脈圧低下PVR 上昇右室虚血右室虚血の是正体血管収縮薬強心薬(ドブタミン,ミルリノン) PVR 適正化

SVR:全身血管抵抗,PVR:肺血管抵抗(Minai OA, et al. 2013

336)を参考に作表)