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p.58 抽出テキスト

7.1.3 右心カテーテル検査所見のリスク因子 (表50)

336, 351, 352)平均肺動脈圧35 mmHg 以下を,術後死亡率を上昇させないカットオフとする報告339)がある一方,平均肺動脈圧341, 347, 350)や肺血管抵抗347, 350)が合併症発生に影響しなかったとの報告もある.得られる指標のうち,右房圧>7 mmHg のみが術後合併症発生に関連があったという報告350)は,肺高血圧が重度であっても,右心機能の代償が十分働いていれば比較的安定した周術期管理が可能であることを示唆している.したがって,右心不全を示唆する右房圧上昇例には十分な注意が必要である.

7.1.4 手術侵襲度とリスク(表50) 336, 351, 352)

肺高血圧症合併患者では,低リスク手術7)の周術期合併症は16% に止まったが,中等度~高リスク手術は47% に達したとの報告がある342).片肺陽圧換気や肺動脈クランプを伴う胸郭内手術の周術期合併症の頻度は61.5% とさらに高率である342).それ以外に,3 時間以上の手術時間340, 342, 348)や緊急手術341, 344, 345, 347, 350)も手術関連リスク因子となる.腹腔鏡手術は手術侵襲度としては高くないものの,気腹手技による気道内圧上昇,肺コンプライアンス低下,高二酸化炭素血症由来肺血管攣縮を介して肺高血圧を悪化させることが知られており,注意を要する354). 7.2 術前の注意点

以下の3 つが重要な注意点である. 1 肺高血圧症例の術前では,表50 のリスク因子を考慮し,

麻酔科医,外科医ならびに肺高血圧管理医からなる多分野専門家チームで手術の必要性,周術期管理の検討を行う7). 2 周術期には血行動態が不安定になる要素が多いため,

可能なかぎり術前の肺高血圧治療の最適化を行い,すでに投与されている肺血管拡張薬は手術当日も中止すべきでない72). 3 肺高血圧専門施設の術後合併症発症率は非専門施設で

の発生率の0.4 倍という報告があり7),肺高血圧を管理できる専門家が施設に不在の場合は専門施設への移送も考慮に入れる.

7.3 術中管理

7.3.1 麻酔手技と麻酔薬

現時点で肺高血圧症例への麻酔手技や麻酔薬に関するRCT は存在しない.全身麻酔は手術開始時に麻酔薬導入・挿管操作・人工呼吸器による陽圧換気が必要であり,呼吸循環動態に関わるイベントが局所麻酔より多い355).プロポフォールやチオペンタールなどの静脈麻酔薬や揮発性吸入麻酔薬の多くが心抑制作用を持ち,導入時に低血圧を誘発する.一方,脊髄クモ膜下麻酔・硬膜外麻酔にも血管拡張作用による低血圧のリスクは存在し,麻酔手技が周術期合併症発生に関係したとの報告350)のとおり,全身・脊髄幹麻酔ともに血行動態への注意深い観察と緩徐な導入が必要である.オピオイドは比較的血行動態への影響が少なく,鎮痛薬として適切に併用することで必要麻酔薬の総投与量を減らせ,より安定した麻酔導入や維持が可能となる351).また,笑気356)やケタミン357)は肺血管抵抗を上げるという報告があり,注意が必要である.

7.3.2 人工呼吸管理

人工呼吸器導入時は,以下のように循環動態の変動に十分注意を払う必要がある. 1 低酸素血症と高二酸化炭素血症はそれぞれ独立した肺

血管攣縮誘発因子であり,可能なかぎり是正する336). 2 陰圧呼吸である自発呼吸と比較して,人工呼吸器による

陽圧換気は吸気時に肺血管抵抗を上げ右室後負荷は増大し,かつ胸腔内圧上昇により右室前負荷は減少するた

表50 肺高血圧患者の周術期死亡または合併症に対するリスク因子

患者リスク因子手術関連リスク因子年齢75 歳以上NYHA 分類≧II ASA 分類≧class III 6MWD <300 m左室肥大RVSP/SBP ≧0.66肺動脈収縮期圧≧70 mmHg右房圧>7 mmHg冠動脈疾患肺塞栓症の既往慢性腎不全緊急手術例

中等度~高リスク手術3 時間以上の麻酔時間術中の昇圧薬使用術中一酸化窒素吸入の不使用

NYHA 分類:ニューヨーク心臓協会分類,ASA 分類:米国麻酔医学会分類,6MWD:6 分間歩行距離,RVSP:右室収縮期圧,SBP:収縮期体血圧(Minai OA, et al. 2013

336),Pilkington SA, et al. 2015

351),Olsson KM. et al, 2018 352)を参考に作表)