p.40 抽出テキスト
2.3.2 静脈血栓塞栓症の血栓リスク 肺血栓塞栓症(PTE)と深部静脈血栓症(DVT)は一連の病態であり,静脈血栓塞栓症(VTE)と総称される. ACCP の静脈血栓塞栓症の抗血栓療法ガイドライン2012 217)では,VTE を発症した患者が抗凝固薬を中止した場合の再発率が示されており,総じて1 年以内は1 年以降に比べリスクは高い(表31) 217).さらに,発症後6 ヵ月以内は抗凝固療法中止で再発率は約10% と報告されている215).また,活動性のある癌や血栓素因を有する患者や誘発因子を有さない患者も再発リスクが中リスク以上である(表30).肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断,治療,予防に関するガイドライン2017 年改訂版216)にも血栓リスク評価に関する詳細が記載されており,参照されたい. 2.3.3 人工弁の血栓リスク 人工弁は機械弁と生体弁に分けられる.機械弁置換術後の患者はワルファリンによる抗凝固療法が生涯必要になる.ワルファリン内服中でも,1 ~2%/ 年218),ワルファリンがなければ8%/ 年219)の血栓塞栓症発症が報告されている.特に,僧帽弁の機械弁,左室駆出率低下例,心房細動合併例,血栓塞栓症の既往例はリスクが高い19).一方で,生体 弁置換術後3 ヵ月は,ワルファリンなしでは血栓塞栓症の発症率は13% とリスクが高い220).この高リスク期間はワルファリンを継続する必要がある220, 221).3 ヵ月以降は,他に抗凝固療法の適応となる疾患を有していなければ抗凝固療法の中止が可能となる19). 2.4 抗凝固療法の継続あるいは 休薬の判断(表32) 周術期における抗凝固療法の継続あるいは休薬の判断は,血栓および出血リスクを考慮したうえで,患者ごとに個別の判断を下さなければならない.必要に応じて外科,内科,麻酔科など集学的チームで協議したうえで決定する.継続,休薬のリスク,ベネフィットを患者に説明することも重要である. 2.5 抗凝固療法の休薬方法 抗凝固療法の休薬を行う場合,薬剤ごとに方法が異なる.ワルファリンの場合,ACCP の周術期における抗血栓療法ガイドライン2012 213) では,手術5 日前からの休薬が推奨されているが,手術手技や出血リスクに応じて3 日前からの休薬も許容されている.これは手術5 日前からの休薬でINR が1.5 以上の患者が7% だけとする報告222)や,2 ~3日前からの休薬で手術当日のINR の中央値が1.8 であったという報告223)が根拠となっている.表33 にワルファリンの休薬方法をまとめた224). 一方でDOAC 内服中の患者では,手術の出血リスクと腎機能に応じて休薬期間の調整が必要である(表34) 209). 表31 静脈血栓塞栓症(VTE)患者の抗凝固薬中止による 再発率 1 年以内1 年以降(/ 年) 初回(外科手術後) 1.0% 0.5%初回(外科手術以外の誘発因子*あり) 5.0% 2.5%初回(誘発因子なし) 10% 5.0% 2 回目(誘発因子なし) 15% 7.5% * エストロゲン治療,妊娠,下肢外傷,8 時間を超えるフライト(Kearon C, et al. 2012 217)より作表) 表32 抗凝固療法の継続あるいは休薬の判断に関する推奨 とエビデンスレベル 推奨クラスエビデンス レベル 出血リスクが低い手術では抗凝固療法を継続するI A出血リスクが中等度の手術では血栓リスク,出血リスクを考慮して個別に判断するI C出血リスクが高い手術では抗凝固療法を休薬するI C付帯事項:すべての症例で,継続,休薬の害と益を吟味し患者に十分説明することが重要である.休薬する場合の休薬期間も個別化が重要である表33 ワルファリンによる抗凝固療法の休薬方法 ワルファリンINR 測定 5 日前中止考慮INR 測定に加えて血液検査(ヘモグロビン,血小板数, クレアチニン) 4 日前中止考慮3 日前中止2 日前中止1 日前中止INR 測定<1.5:予定手術1.5 ~1.8:リバースを考慮術日あるいは翌日術日夕方もしくは 術翌朝から維持量で再開 (Spyropoulos AC, et al. 2016 224)を参考に作表)